OKI鶴岡工場はなぜ1年間で生産効率を抜本的に上げられたのか:メイドインジャパンの現場力(1)(3/3 ページ)
プリント配線板を生産していた田中貴金属工業鶴岡工場は2012年10月、沖電気工業の買収によりOKI田中サーキットへと生まれ変わった。同工場は高い技術力を誇り航空・宇宙、防衛関連での実績がある一方で多品種少量生産型のビジネスモデル転換に悩んでいた。しかし、買収後1年でその状況は抜本的に変わった。その舞台裏には何があったのだろうか。OKI田中サーキット 代表取締役社長 野末正仁氏に話を聞いた。
生産現場そのものが商品
野末氏は、EMS事業は「生産現場そのものが商品」であるという。ハード面の技術の増強を図るのはもちろんだが、継続して利益を上げるには、徹底した現場ごとのPL(損益)管理が必要だと強調する。
しかし、会社全体の経営目標や売り上げ実績を現場作業者に開示しても、現場担当者が「それが自分の仕事とどう関わりがあるのか」を実感するのは難しい。自分が頑張れば、どの程度の効果が出るのかを把握している作業者は多くはないだろう。
そこで、OKI田中サーキットでは、まず費目・課ごとの売り上げ目標と、支出金額を見える化したという。月ごとの製造目標値を収入金額と見なし、それに対する消耗品などのコストを並べ、月ごとの推移をグラフ化して貼り出すようにした。収支の見える化を図る一方で「現場に収支を任せる」(野末氏)ことにしたのだという。
その結果、それぞれの担当部門が自分たちの収支を自覚したことで抜本的な意識改革につながり、無駄な発注などが減ったという。例えばドリルの使用量は、月20万円程度の削減を実現できた。全体としては、対前期比5%削減の目標値を上回り、8%の収支改善に成功している。
現場も喜ぶ“カイゼン”の見える化
コストカットと聞くと、現場に無理な負担が寄せられるようなイメージもあるが、結果として貼り出されたのは右肩上がりに収支が改善されていくグラフだ。「自分たちの成功が見えるようになった」と、現場からは明るい声が上がっている。
また、費目ごとに貼り出したことで、工場として弱い点が一目で分かるようになり、半期ごとに見ていた数値を日々確認することで、タイムリーな対策がとれるようにもなった。「いくら機械の加工時間が削減できたとしても、人間が変わらないと、現場の力は本当には変わらない。自分たちの改善がどれほどの効果を上げているのかが分かれば、担当部門は我が身のこととして受け止め、モチベーションの向上になる」と野末氏はいう。
この他、生産管理は主に人手で行っている。受注すると、生産管理の担当者がその内容を作業指示書に記入し、生産管理棚に入れる。指示書はその優先度に応じて赤、青、黄と色分けされる。分類は熟練者が行うが、同工場では、スキルの平準化を進めており、担当者が欠けても他の作業者が同等の仕事ができるよう教育に努めている。
地道な改善の積み重ねで「強い製造ライン」を育てる
野末氏はこの生産能力のさらなる向上を今後の課題として挙げる。「OTCの仕事に対し、顧客は高い評価をしているだけに、より多くの仕事を委託したい。これに応えるためには現在の2交代制による週5日稼働から、3交代による生産体制への移行が望ましい」と野末氏は話す。せっかくの設備が稼働していない時間があるというのはそれだけで機会損失になるという考え方だ。
また、これまで東京を経由して発注していた設備の修理を地元の業者に委託するなどして見直しを進め、効率的な維持管理を行う方針だ。「工業団地を抱える地元には優秀な業者がそろっている」(野末氏)
OTCの取り組んだことは「技術を磨き、ボトルネックを改善し、段取り換えを縮めてリードタイムを短縮する」「より速く、多く、高いレベルで顧客の要求に応える」など、奇抜なことをしているわけではない。製造業ならば、どこの工場でも求められるようなことを戦略的にやり直しただけだ。ただ、もともと確かなモノづくりの力を持っていた鶴岡工場と、独自のEMS事業を成功させるOKIが合わさったからこそ、1年で目に見える結果を出し、好スタートを切ったといえるだろう。
OKIのEMS事業本部は、中長期的には、大型多層基盤の分野で日本一を目指しているという。そのためには、鶴岡工場単独の生産能力を上げるだけではなく、協力会社や素材メーカーとの連携も不可欠だ。他社とWin-Winの協調を進めるためにも同工場のモノづくりの力、実績を伸ばしアピールしていきたいと力を込める。
野末氏は「EMS事業は油断をするとコスト競争になりかねない。技術、現場力を高め、請け負う製品の種類を選択するとともに、地道な改善を積み重ねることで強い製造ラインを育てていく」と語っていた。
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