ロボットが人型である必要性とは――人間にとって最適なロボットデザインを考える:ロボットデザイナー園山隆輔氏が語る(2/2 ページ)
情報処理推進機構(IPA)は2013年11月13日、産学連携を推進するアキバテクノクラブとともに、「未踏交流会」の拡大版「ロボット特集 〜ロボットデザイン〜」を開催。本稿では、T-D-F代表の園山隆輔氏の講演「ヒト型×ロボット×デザイン」の内容を紹介する。
人との関係性を明らかにしたデザイン
では、人との関係性を明らかにしたデザインを実現するにはどうしたらいいのか。
それは、「誰のために?」「何のために?」「どうやって?」「なぜ?」「いつ?」「どこで?」という“当たり前の原則(5W1H)”をしっかりと考えることだ。「どんなに美しく、カッコ良いデザインを作り上げても、この原則が欠けていると、本来ロボットに与えられている役割を果たせない……という残念な結果になる可能性がある。まず、はっきりさせるのはユーザーとの関係性。ここを築いた上で、はじめて、美しさやカッコ良さの実現に力を注ぐべきだ」と園山氏。
では、園山氏の考えるロボットと人との関係性とは何か? 「それは、一言で表せるものではない。“ロボット”は、“乗り物”“家電”と同じ、上位概念を指し示す言葉だと思う。同じ乗り物の話でも、ある人は飛行機、ある人は三輪車の話をするかもしれない。これでは話がかみ合うわけがない。ロボットもそういうことだ。ユーザーとの関係性により種類が異なってくるからだ」(園山氏)。
例えば、重要な商談の場に、営業マンがゆるキャラ風デザインの秘書ロボットを連れてくるのは関係性として『ない(おかしい)』わけだが、もし、この営業マンの勤め先がキャラクタービジネスを展開している会社だったらどうか。ユーザーとの関係性として『あり』になるはずだ。
商談に使える秘書ロボットを望んでいたら、ゆるキャラ風デザインのロボットが……(モキュ?)。普通のビジネスシーンでは「ない」が、この営業マンの勤め先がキャラクタービジネスを展開している会社だったら「あり」になるだろう
「この例からも分かる通り、同じ商談の場だからといって、関係性は一律ではない。是も非になるし、非も是になり得る。だからこそ、5W1H、ユーザーとの関係性をしっかりと考えたデザインが必要になる。そして、人間というのは自分との関係性が明確なコト・モノに対し、『大切』『欲しい』と思うものだ」と園山氏。
ロボットが人型である必要性、人に似せる意味
では、人型ロボットの条件とは何か。園山氏は「明確に『これが人型ロボットだ!』と、答えは出せない。なぜなら、これまで述べてきたように、人型であるべきかどうかは、ユーザーとの関係性により変わるからだ」と説明。
例えば、園山氏の代表作の1つであるHRP-4は、人間のように働くこと、人間とロボットの共同作業とはどうあるべきがを検討することが目的とされたロボットだった。だから人型である意味があったのだ。これに対し、もう1つの代表作であるNEXTAGEも人型ロボットと称されることがあるが、「これは、産業用ロボットアームの進化系にすぎない」(園山氏)という。作業をする2本のロボットアームと状況認識するためのステレオカメラを組み合わせたら、人間の上半身のようなデザインになっただけで、はじめからヒューマノイドロボットを目指して作ったものではないのだ。
さらに、人に似せることの意味について園山氏は「ある」としながらも、「ただし、これも関係性として、人に似せる必要性があれば」と付け加えた。例えば、単身生活をする高齢者向けのコミュニケーションロボットであれば、安心感や親しみやすさが求められ、人のシルエットや豊かな表情などが必要になるかもしれない。逆に、床掃除をするだけのロボットであれば人に似せる必要はないだろう(床に這いつくばって掃除する人型ロボットはかなり怖い……)。
講演の最後に、あらためて園山氏はロボットが人型である必要性について、次のようにまとめた。「デザイン的な観点からいうと、人型であるべきかは、ユーザーとの関係性を確立するための“手段の1つ”にすぎない」(園山氏)。
ロボット開発の最前線
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