新市場をつかめ! 勝負を分ける3Dプリンタ特許〔中編〕特許で見える3Dプリンタの将来像:知財コンサルタントが教える業界事情(16)(3/3 ページ)
3Dプリンタの普及のカギを握る「特許」の存在を、知財と企業戦略の専門家が読み解く本連載。2回目となる今回は、具体的な特許情報に触れながら、普及のポイントについて解説する。
3Dプリンタとプリンテッドエレクトロニクスの技術融合
2012年、StratasysとOptomecは、共同開発を進めてきた、3Dプリンタとプリンテッドエレクトロニクスの技術融合の成果を発表しました。この技術融合は、製造コストが安価で、環境負荷の低減が図れ、軽量かつ機能性を備えた構造物の製造を実現させるものです。
StratasysとOptomecの最初の開発プロジェクトは、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle :UAV)向けの“電子機器を備えた「Smart Wing(かしこい翼)」”でした。今後、同様の取り組みは、医療機器、家電、自動車、航空宇宙などの分野で、製品開発そのものの姿を大きく変える可能性を秘めています。*)
*) Stratasysのプレスリリース:“3D Printing is Merged with Printed Electronics”
航空機設計を手掛ける米国Aurora Flight Sciencesは、3Dプリンタとプリンテッドエレクトロニクスの技術融合は、「モノ造りの設計と製造」に変革をもたらし、「必要材料量の低減と工程数の削減」を同時に実現させ、生産の合理化をもたらすと指摘しています。
Smart Wingの作成方法は以下の流れで行います。まず、StratasysのFDM(溶融堆積成形)プロセスを用いた、3DプリンタシステムでUAVの翼の外形を作製します。次に、OptomecのAerosol Jet system(エアロゾルジェットシステム)で、翼に直接コンフォーマルセンサーやアンテナ、電子回路をプリントします。翼にプリントされる電子回路およびセンサーの設計は、Aurora Flight Sciencesが担当しました。
StratasysとOptomecが取り組んでいる、デジタルファブリケーションには、多くの潜在需要があると考えられます。形状の複雑な構造物に、機能的な電子回路・電子機器を容易に作り込むことが実現できれば、迅速なカスタマイズ生産が可能になります。そして、費用対効果の優れた、効率的な航空機の製造にもつながるかもしれません。
コラム
プリンテッドエレクトロニクスは、既に実用化されている!
フォードの自動車「2013 Ford Fusion Energi」には、In-mold Overhead Consoleが搭載されており「Smart Surface 3D」と称されています。Smart Surface 3Dの製造には、T-inkの技術が採用されており「Print⇒Form⇒Mold」の3工程で構成されているといいます。
この技術については、T-inkの一部門であるInk-logixから「US2012/0223805 “In-mold Resistive and Shielding Elements”」(ファミリー特許: US2009/0108985、WO2008/1313105、US2008/257706)が特許出願されています。
注目した米国特許「US2012/0223805」にはプリンテッドエレクトロニクスが用いられていることも分かっています(関連記事:実用化はどこまで? プリンテッド・エレクトロニクス業界の開発競争を読む)。*)
*) 2013 Ford Fusion Energiの参照記事:“Stretchable electronics and electrics for electric vehicles”
(後編に続く)
筆者紹介
菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社
sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp
1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。
1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。
知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。
本連載に関連する寄稿:
2005年『BRI会報 正月号 視点』
2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435
おことわり
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