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スマホで負けたのは“握手しながら殴り合えなかった”からだモノづくり最前線レポート(41)(2/2 ページ)

NECがスマートフォン事業から撤退を発表し、パナソニックも個人向けのスマートフォン事業休止を宣言した。“ガラパゴス”環境で春を謳歌した国内スマートフォン端末メーカーが相次いで苦境に立たされた理由はどこにあったのか。京セラや外資系端末メーカーなど携帯電話関連業界に身を置いてきた筆者が、経緯を振り返りながら問題点を分析する。

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国内端末メーカー同士の消耗戦

 かつて日本でトップシェアを競っていたシャープ、パナソニック、NEC、富士通も2000年代に海外進出したものの、日本市場の端末をベースとしていたため、海外での競争力は発揮できませんでした。結局、進出しては数年後には撤退という結果を繰り返しました。端末メーカーにとっては国内市場しかなかったわけです。成長が鈍化している国内市場で生き残りを掛け、さらに日本に特化した機能とキャリアサービスを端末に入れ込むことを加速させていきました。

 国内市場での売上高を伸ばすために、通信キャリアの施策の下、年3回の商戦期を作り、買換えスパンを短くすることで販売台数を伸ばそうとしました。通信キャリアは毎商戦期ごとに新しいキャリアサービスを立ち上げ、ほとんど使われない機能を搭載した端末を発売し、国内市場で激しくマーケットシェアを奪い合う消耗戦を繰り広げていきました。このサイクルの中で端末メーカーは徐々に疲弊していきました。国内端末メーカーの苦境は、国内通信キャリアの閉じられたエコシステムのみのビジネスに注力してしまったことが招いたといえます。

 一方、海外端末メーカーはこの10年間で着実にグローバル化を進め、力を蓄えた上で日本市場に参入してきました。米国アップルは、「iTunes」を核としたソフトウェアの世界と、高度な加工技術を活用しながら洗練されたグローバル統一デザインを実現した「iPhone」により一気にスマートフォン市場を世の中に定着させました。韓国サムスン電子は、ターゲット層を細分化した「Galaxy」シリーズを展開。プロモーションでは地域別統括拠点がローカライズの中心となり、世界中でマスプロモーションを行い、スマートフォンのトップメーカーに躍り出ました。

 これらのグローバル企業が参入し受け入れられることで、予定調和だった2兆円市場のバランスが崩れ、そこであぶれた日系メーカーがはじき出されたというわけです。

競争と協調のコーペティション戦略

 欧米企業には「コーペティション」という考え方があります。コーペティション(Coopetition)とは「Cooperation(協力)」と「Competition(競争)」を組み合わせた造語で、競争相手と特定分野において、双方にとって利益になることを遂行するために協調関係を築くという意味だそうです。「片手で握手をしながらもう一方の手では殴り合うような関係性」ともいえるかもしれません。

 日本企業は欧米企業と比べてこのコーペティション戦略が苦手だといわれています。競争する部分は競争する部分、協力する部分は協力する部分、というような割り切りができない場合が多いからです。

 例えば、外資系企業では必要とする人材であれば競合相手からの出戻りであっても再契約することはよくあることです。しかし、日本企業では競合相手に転職した人材を元の会社が受け入れることはあまりありません。また、幾つかの競合企業が協力するための業界団体などを作った場合でも、結局各社が自社の利益に固執する傾向が強まり、メリットを生み出せないまま解消されることが多くあります。日本では、企業活動においても敵か味方を明確に分ける考え方が支配的であり、敵と味方の関係を同時に構築しながら自社の利益を最大化するというような考え方があまりできていないように見えます。

組めるところは組む重要性

 国内端末メーカーの合弁で思い出されるのが、NECとパナソニックが2006年に設立した共通プラットフォームの開発と携帯電話端末の商品開発を共同で行うための開発合弁会社エスティーモです(関連記事:NEC・松下の携帯合弁会社は「エスティーモ」)。しかし設立された2006年から具体的な成果が出せぬまま、両社はマーケットシェアを落とす結果となり、2008年にLinuxベースのソフトウェアプラットフォームを推進するLiMo Foundationに同事業は引き継がれました。実質的に2年余りで合弁会社は精算されたことになります。

 そうこうしているうちに2007年にiPhoneが登場。2008年にはAndroidスマートフォンが発売され、スマートフォンシフトが始まります。両社は商品力ある製品を生み出すことができずにシェアを落とし続けることになりました。小さい利益をけん制するうちに共倒れになってしまったということです。

 アップルやGoogleなどのグローバル企業は巧みにコーペティション戦略を使いこなし、まずは競合などは関係なく手を組めるところとは手を組み、産業を育てることに注力します。そして、エコシステムの中で自らが主導権を取ることで、利益を得ることに成功しています。

 基本的な事業運営の姿勢としてコーペティション戦略は、苦境に立つ日系携帯電話端末メーカーにも有効な施策だと思います。“ガラパゴス化”で参入障壁が高くなっていた日本市場ですが、スマートフォンに移行する中で、通信キャリアが日本独自の仕様を入れようとしても、もはや通じない状況になっています。スマートフォン事業はグローバルで共通のものになってしまっているからです。障壁がない以上、競争相手はグローバル企業になってきます。世界で勝てるような製品を仕上げなければ、日本市場さえ守れないような状況になっているのです。

カニバリゼーションへの考え方

 また、日系携帯電話端末メーカーを悩ませたのがカニバリゼーション(共食い、自社製品同士で顧客を取り合う状態)です。NECとパナソニックがスマートフォンへのシフトが遅れたように、自社が築き上げたフィーチャーフォン事業へのカニバリゼーションを危惧することで、海外メーカーと比べスマートフォンへのシフトが遅れました。

 自らの市場を侵食してもスマートフォン事業に参入するという決断ができなかったのです。一般的にはカニバリゼーションは避けるべきでありますが、市場競争のゲームチェンジを引き起こすようなパラダイムシフトが起きた状況では、事情は異なります。自らが作った市場は自らが食いつぶすべきであり、そうでなければ他の誰かに食われてしまうだけだからです。

 日系携帯電話端末メーカーにいま必要なことは、これまでの慣習にとらわれることなく、グローバルからの視点に立ち、自社の強みではない部分については大胆に協業し、コーペティション戦略を実現していくことが重要になると見ています。

Profile

長島

長島 三氣生(ながしま・みきを)

早稲田大学商学部卒業、在学中に米国アリゾナ大学に留学。欧州ESADEビジネススクール経営学修士(MBA)、アマゾンジャパンでインターンを経験。京セラ通信機器事業マーケティング部にて携帯電話端末の商品企画、及び販売促進業務を経験。2011年から欧州系インターネット企業の日本法人立ち上げに従事。日本市場でのビジネスプランニング、事業開発、マーケティング、セールスなどの強化を担当する。




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