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スマホで負けたのは“握手しながら殴り合えなかった”からだモノづくり最前線レポート(41)(1/2 ページ)

NECがスマートフォン事業から撤退を発表し、パナソニックも個人向けのスマートフォン事業休止を宣言した。“ガラパゴス”環境で春を謳歌した国内スマートフォン端末メーカーが相次いで苦境に立たされた理由はどこにあったのか。京セラや外資系端末メーカーなど携帯電話関連業界に身を置いてきた筆者が、経緯を振り返りながら問題点を分析する。

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 2013年7月にNECがスマートフォン事業から撤退を発表してから2カ月余り、今度はNECと一時代を築いたパナソニックも個人向けスマートフォンの新製品開発の休止を発表した(関連記事:NEC、スマホ事業“前向き”な撤退――脱“モノ”売りを加速)。フィーチャーフォン(一般携帯電話)端末では、圧倒的な存在感を築いた2社が、スマートフォンでは勝ち残れなかった理由はどこにあったのだろうか。

 そこにはパラダイムシフトと、それに対応できない「モノづくり」の構造があった。京セラや外資系端末メーカーなどでフィーチャーフォン、スマートフォンの端末開発に携わり業界状況に精通する筆者が、国内端末メーカーが苦戦する背景とパラダイムシフトへの対応として必要なものを分析する。




国内端末事業と通信キャリアの“失われた10年”

 まず、携帯電話端末メーカーと通信キャリアの過去について見ていきましょう。1995年にPHSサービスが開始されてから約10年に渡りトップを争ってきたNECとパナソニックでしたが、2005年以降徐々に国内市場でのマーケットシェアを失ってきています。MM総研の「2012年度国内携帯電話端末出荷概況」によると、携帯電話端末の出荷台数ベースの市場シェアは、パナソニックが6.9%で7位、NECは5.3%で8位となっています。その他のメーカーも持続的に成長している企業はなく、2013年3月期の決算発表で黒字計上ができた企業は、ソニーモバイルコミュニケーションズと京セラなどわずかです(関連記事:テレビとスマホで黒字化したソニー、反撃ののろしは上がったのか)。

2002年2012年 携帯電話端末の2002年のシェア(左)と2012年のシェア(右)(出典:MM総研)(クリックで拡大)

 一方、直近10年間における通信キャリアの成長も明暗が分かれています。NTTドコモは2004年3月期に5兆481億円の売上高、1兆1029億円の営業利益を計上して以降、売上高、営業利益ともに徐々に減少し、2013年3月期には売上高4兆2400億円、営業利益8745億円となっています。同様にau(KDDI移動体通信事業)も2008年に達成した売上高2兆8625億円、営業利益4550億円を超えられていない状況です。

 通信キャリアの中で唯一成長を続けているのが、ソフトバンクモバイルです。ソフトバンクモバイルは2006年4月にボーダフォン日本法人を買収してから、割賦販売、月額980円のホワイトプランの導入、2008年7月にiPhone3Gの国内販売権獲得など、これまでにない果敢な施策を実行することで成長を重ねてきました。2012年にはソフトバンクは移動体通信事業として最高売上高2兆2777億円と最高営業利益4678億円を達成しています。

 さらに、2013年7月には米国の携帯電話サービス大手であるスプリント・ネクステルの買収を終え、2013年10月には、スマートフォンなどを販売する米国ブライトスター、更には人気ゲーム「Clash of Clans」の開発元であるフィンランドのゲーム大手スーパーセルの買収を発表するなど、積極的な動きが目立っています。

 直近10年の携帯電話業界の動向について簡単に振り返りましたが、ここで強調したいのは、国内端末メーカーと、ソフトバンク以外の通信キャリアは、この10年で実は全く成長していないということです。ここに、スマートフォンシフトにより、日系携帯電話端末メーカーが弱体化した理由があります。

“キャリアファースト”のモノづくり

 2013年3月期のフィーチャーフォン端末とスマートフォン端末の出荷台数は4181万台(出典:MM総研)でしたが、その台数と端末の平均価格から国内の端末の金額市場規模は約2兆円であると推測できます。同様の計算を各年で行った場合、直近10年間の端末の市場規模は実はあまり変化がありません。フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトによりデバイスの販売平均単価は上昇したものの、ユーザーの買換え期間が長くなったことで出荷台数は減少しているからです。

 この2兆円市場を端末メーカーは取り合ってきたわけです。2兆円という市場規模は決して小さい市場ではありません。端末メーカーにとって見ると、通信キャリアにさえ安定的に端末を採用してもらえれば、5%のマーケットシェアであっても1年で1000億円規模の売上高が見込めるからです。

 そのため端末メーカーは、通信キャリアから採用を勝ち取るため、キャリアの施策に対応した端末供給を最優先した開発を行うことになります。私自身も、携帯電話端末とスマートフォン端末の商品企画に携わってきましたが、そこで最も大きな違和感を覚えたことは、端末メーカーの商品企画と開発の重要な意思決定について、ユーザーではなく通信キャリアの目線で議論されていることでした。結果として端末メーカーは“ユーザーファースト”なモノづくりより“キャリアファースト”なモノづくりになっていきました。

 さらに、国内市場だけでもビジネスが十分に成り立つことで、通信キャリアは独自の規格やキャリアサービスを作り、囲い込みを強くしていきました。これは新たな技術の成長や発想の実現という意味ではとても効果がありました。実際に今スマートフォンで受け入れられているサービスは“ガラパゴスケータイ”の時代に実現したものが多くあります。しかしそれは日本に特化したもので、グローバルで使えるものではありませんでした。そのため、よりオープンなスマートフォン環境になった時に、競争力を失っていきました。

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