あの「みちびき」や「ひさき」も――生産革新進む人工衛星の新たなモノづくり:CEATEC 2013
イプシロンロケットで打ち上げに成功した「ひさき」や、準天頂衛星システム「みちびき」など、人工衛星の話題が増えているが、その一方で人工衛星業界には自動車や携帯電話機などと同様に生産革新の波が押し寄せているという。CEATECで主要メーカーである三菱電機とNECに聞いた。
「人工衛星を作っている」と聞くとどういうイメージを持つだろうか。高度な技術を駆使し、注文を受けた1つの衛星を最初から丁寧に組み上げていくと考える人も多いのではないだろうか。確かに、人工衛星は少量を生産する“個産品”であり、従来はそのような作り方で生産されていた。しかし、今このような人工衛星業界にも、自動車やテレビ、スマートフォンなど“量産品”のような生産革新の波が押し寄せて来ている。
なぜ人工衛星に生産革新の波が?
なぜ“個産品”である人工衛星市場に生産革新の波が押し寄せているのだろうか。人工衛星は、国家からの受注が大半となっている。その主用途は、宇宙研究と商用利用の2つだ。従来日本の人工衛星は、宇宙研究用途で活用されるケースが多かった。しかし宇宙研究用の開発費は削減傾向が続いている。一方で通信や地球観測など商用利用へのニーズは増加傾向だ。特に新興国などからの引き合いは高まっている。
しかし、これらの国々にとって大きな投資は難しいケースも多く、低価格化が求められていた。また人工衛星メーカーである米ボーイングや米ロッキード・マーチンなどは数百台ベースの導入を進めており、高いコスト競争力を持つ。日本の人工衛星メーカーにとってはこれらのニーズに応えるために、生産革新によるコスト競争力の向上は必須条件となりつつあった。
モジュール化と生産革新
そこで進められているのがモジュール化だ。人工衛星には、電源系や姿勢制御系、推進系、通信系など共通の基本機能がある。これらの機能を既に組み上げた形で1つの箱に収納し「標準バス」(基幹系機器)として標準化。この標準バスに、太陽光パネルや必要機能におけるモジュールを組み合わせて要求仕様の製品を生産するという形だ。
2010年に打ち上げられた準天頂衛星「みちびき」や、トルコの通信衛星を受注するなど、人工衛星で多くの実績を残す三菱電機は、CEATEC JAPANに準天頂衛星や静止気象衛星「ひまわり」など数多くの人工衛星技術群を出展した。
同社では既に人工衛星の開発、生産に対し「標準バス化」を進めており、「DS2000」や「DS1000」など重さ(大きさ)ごとのシリーズを用意しているという。三菱電機 電子システム事業本部 宇宙システム事業部 事業推進担当課長の安光亮一郎氏は「標準バス化を進めた場合、初号機でコストは3割低減できるといわれている。当社では既に2号機、3号機の開発が進んでいるものも多く、さらにコスト削減が進んでいる」と話している。
同社では2013年4月に、三菱電機 鎌倉製作所の人工衛星工場を増築しており、従来年産4基だった生産能力は年産8基に倍増させたという。「コスト競争力の面では、海外企業に比べて厳しいものもあるが、小型化や軽量化などの技術力で勝負できるようにしていきたい」と安光氏は話している。
トヨタ生産方式を採用
NECも人工衛星技術群をCEATEC JAPANに出展。2013年9月14日にイプシロンロケットにより打ち上げられた「ひさき」(SPRINT-A)や、水循環変動観測衛星「しずく」、間もなく打ち上げ予定の小型地球観測衛星「ASNARO」などに搭載された技術を紹介した。
同社も人工衛星の開発に「標準バス」を活用。独自の標準バスシステム「NEXTAR」を用意し、効率的開発の実現に取り組んでいる。さらに同社では今まで人工衛星専門の工場を持っていなかったが、現在府中工場内に人工衛星の新工場を建設中だ(関連記事:2020年、宇宙事業で1000億円を目指す! NECが人工衛星組み立て工場を新たに建設)。同社ではトヨタ生産方式を初めとするモノづくりのノウハウをモノづくりソリューション「ものづくり共創プログラム」として提供しているが、新工場にも同ソリューションのノウハウを活用し、効率的な生産体制を築くという。
NEC 宇宙・防衛事業推進本部エキスパートの川内正則氏は「宇宙研究用を中心としてきたが、商用利用の拡大を推進。成長の余地のある地球観測用途での導入を広げていく方針だ。当社は光学観測とレーダー観測の両方のモジュールを用意しており、標準バスと組み合わせることで強みを発揮できる。現在は小型規模が中心だが、新工場が稼働すれば大型のものも生産できる。将来的には大型人工衛星にも取り組んでいきたい」と話している。
日本政府は2013年1月、今後5年間の新宇宙基本計画を策定。官民連携でアジア諸国などに日本の科学技術を売り込む方針を示している。生産革新が進み、コスト競争力を向上させた日本の人工衛星にも海外受注拡大の期待が高まっている。
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