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現場の発想を即決実行! 三菱電機ホーム機器が高級白物家電で連勝する秘密小寺信良が見たモノづくりの現場(7)(4/4 ページ)

総合電機メーカーとして存在感を築く三菱電機。重電分野などが強いが、意外にも高級白物家電では“尖った”製品でヒットを連発している。そのモノづくりの現場は“人”を中心とし、自発的な発信が飛び交う自由闊達(かったつ)なものだった。小寺信良が報告する。

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ライン生産なのにフレキシブル

 第2工場では、IHや食洗機など、住宅設備系の製品を製造している。こちらもほとんどがラインによる製造だが、IHの成長が停滞していることからこのラインを短くして、空いたスペースで組み込み型食洗機のライン増設が行われていた。

 セル生産なら、製造量調整するなら組み立てブース数を増減するところだが、ここではラインそのものを増設したり縮めたりして調整する。ライン設備は固定されたものではなく、下にキャスターがついたパイプ枠によって組まれているため、いつでも移動できる状態にある。

食洗機の新ラインを増設中
空きスペースに食洗機の新ラインを増設中(クリックで拡大)

 同社は中国で製造している部品もあり、円高の時期にはそちらでも製造を行っていた。しかし、円安に振れ始めた今、いつまでも海外生産を続けるメリットがないとして、一部を中国から引き上げてこちらに製造を移したという。状況に応じて海外に出したり引いたりという判断が素早くできるというのも、分社化によるスピード感だろう。

戦略スペースとして確保された空間。ここにも新ラインができる
戦略スペースとして確保された空間。ここにも新ラインができる(クリックで拡大)

 このようなラインの変更は頻繁に行われており、多い時には毎週必ずどこかのラインが変わっているということもあったという。製造者自身が生産技術を見直し、現場でラインを手作りするから、使いやすいラインになる。また製造の現場から作業工程を見直して設計にフィードバックし、2つの部品を統合して1つにするといった改良も行われる。

 新製品に切り替わると、新しいトライアルが発生するため、生産効率は落ちると思われがちだが、生産効率はここ6年でおよそ1.5倍に向上。新製品ほど改良されて作りやすい設計に変わっていくため、生産効率が上がっていくのだという。生産現場と設計が一緒にいるからこそできる話だ。

チャイムに合わせる「よーいどん方式」

 食洗機のライン生産もキッティング生産だが、組み立てで実施しているのは「よーいどん方式」と呼ばれる作業手法だ。毎回チャイム音に合わせて、ラインの作業者が一斉に1工程の作業に着手する。そうすることで、それぞれの作業における時間のばらつきが計測できる。遅い工程は作業を減らし、早い工程は作業を増やす。これにより、作業者の待ち時間をなくすというわけだ。

 こうなると、まるで馬車馬のように働かされるイメージがあるが、実際には逆である。チャイムがないと1工程の作業時間の目安がないため、作業者は遅れないように目いっぱいの速度で作業をしてしまい、早く疲れてしまう。だが一定のリズムで作業ができれば、疲労が少ないのだという。

 食洗機内で使うポンプも内製である。ここではITを活用した製造支援システムを導入している。部品を取るとセンサーが感知し、次の作業工程の指示がモニターに表示される。間違えると画面が先に進まないため、早期にミスを発見できる。ポンプは水漏れなどの不良が発生すると被害が大きくなるため、重要な部分はこのような製造支援システムを使って、1工程ずつチェックしている。

キッティング方式によるIHクッキングヒーターの製造ライン。緑の帽子は検査員の目印
キッティング方式によるIHクッキングヒーターの製造ライン。緑の帽子は検査員の目印(クリックで拡大)

自由闊達(かったつ)なモノづくり現場

 三菱電機ホーム機器の工場は、1970〜80年代初頭に全盛を誇った町工場の元気の良さや和気あいあいとした雰囲気を残しつつ、大きくなった工場だという印象を持った。責任者の趣味そのままでサイドカーシステムと名付けたり、IHクッキングヒーターの主幹製造ラインを月組、星組と呼んでいたりと、現場はかなり自由闊達(かったつ)である。だが製品では節目節目でヒットを飛ばし、勝ち続ける工場だ。

 省エネへの取り組みも、動きが早い。東日本大震災では直接的な被害はなかったが、それを契機に省電力化に取り組んだ。照明はLEDに交換し、一部には太陽光発電も取り入れた。

 どの工場もそうだが、エアコンがかなりの電力を食っている。そこで旧式のエアコンは全廃し、一気に電力効率の良い新しいものに交換した。工場内が厚手のビニールの"のれん"で区切られているのは、人のいるゾーンのエアコン効率を上げるためだ。

 人力で動いている工場だからこそ、人に優しい環境であることが重要だ。女性社員も多い中、力づくでは生産性は上がらない。

 社員全員の頭と手で製造を変えていくという、日本が一番光っていた時代のモノづくりを、もう一度ここで見たような気がする。

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)




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