現場の発想を即決実行! 三菱電機ホーム機器が高級白物家電で連勝する秘密:小寺信良が見たモノづくりの現場(7)(3/4 ページ)
総合電機メーカーとして存在感を築く三菱電機。重電分野などが強いが、意外にも高級白物家電では“尖った”製品でヒットを連発している。そのモノづくりの現場は“人”を中心とし、自発的な発信が飛び交う自由闊達(かったつ)なものだった。小寺信良が報告する。
電力を使わずにオートメーション化
深谷市の本社工場では、掃除機、除湿器、食洗機、IHクッキングヒーターなどを生産している。車で30分程度のところにある群馬県藤岡工場は、本社工場の4分の1程度の規模だが、そこではジャー炊飯器、食器乾燥機を生産している。
同社製品はほとんどが国内需要向けであり、輸出品はそれほど多くはない。このため、多品種少量生産が基本となっており、少ない在庫でうまくラインを回すため、人力によるフレキシブルな運用がポイントとなっている。そうは言っても全てがセル生産ではなく、量の多いものはライン生産を行っている。今回の見どころは、コンパクトなライン生産だ。
まずは第1工場にある掃除機のラインから見せていただいた。三菱電機の掃除機は、モーターまで内製である。現在高級・中級機でモーターまで内製するメーカーは、三菱電機と日立製作所だけである。掃除機は仕事率が命であり、モーターの巻き線の改良などは頻繁に行われている。製品開発と生産ラインが一体化した現場であるため、すぐに試作ができるところも強みだ。
深谷工場でのライン生産では、「キッティング方式」と呼ばれる方法が採用されている。これは製品に必要なパーツを全て"キット"として仕切りのある箱にセットしておき、組み立てる人がそれらを順次手に取って組み立てていくというスタイルだ。
「サイドカー方式」と「ししおどし返却」
手元には製造補助のための治具パレットがあり、これがコンベア上に置かれて流れている。注目すべきは、上の箱だ。これは当然治具パレットと同期して動いていく必要があるが、別のコンベアで動かすと、同期を取るのが難しくなってしまう。キットの箱を人が運んだり、手動でレーンを動かしたりと、いろいろトライしてみたが、効率的ではなかった。
そこで製造責任者が考案したのが、「サイドカー方式」と呼ばれる手法だ。実は上のキットを入れた箱のラインは、動力を持たず、ただレールに乗っているだけである。下のコンベアに立てられている棒に引っ掛かって、一緒に動いているだけだ。つまり、バイクのサイドカーと同じ原理で、1つの動力部にもう1つ車をつないで動かしているわけである。責任者がバイクが好きで、そこからヒントを得て考案されたものだという。
この箱の返却方式も面白い。「ししおどし返却」と呼ばれる仕掛けで、使い終わった箱はししおどしの要領で、今度は今までのラインの下にある返却ラインを通って戻っていく。この返却ラインは勾配が付けられており、重力だけで転がって最初の位置に戻るのだ。
最もうまくいったのがパンツのゴムひも
キットの箱は作業者が取りやすいように手前に前傾しているが、このししおどしをうまく動かすために、レーンを途中から水平に戻している。これも作業者らが自分たちで考案し、曲げ加工を行うなど7、8回試作し、実際に稼働するようにした。途中でレーンを曲げるなど外部の設備業者ではまず考えない方法を取っているが、思い付いたらどんどん実行していくことがこの工場の強みだ。
裏面作業用のテーブルも、手作りの工夫である。本体を裏返してネジ留めする工程では、作業台がサイドカー方式同様、コンベアに引っ掛かって一緒に移動する。ネジ留めが完了して本体を降ろすと、自動的に元の位置に戻っていく。
この戻る機構を実現しているのは、パンツに使われているゴムひもだという。これもバネなどを使っていろんな方法で試作したが、強すぎたり伸びて戻らなくなったりして、うまくいかなかった。さまざまな方法を試して一番上手くいったのが、このゴムひもであったという。
この動力ゼロで動くハンドメイドのキット供給方式は、三菱電機で特別賞を受賞したという。三菱電機本体ではなく関連会社としては、初めての受賞であったという。
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