再注目される“暗黙知”の管理――シャープ、牧野技術サービスの場合:ナレッジマネジメント(2/2 ページ)
国内熟練技術者の引退による技術承継や、海外でのアフターサービス業務の効率向上など、保有する知識を共有し、技術承継や海外展開を容易にするナレッジマネジメントシステムに再び注目が集まっている。PTCジャパンが開催したセミナーでは、シャープと牧野技術サービスが登壇し、ナレッジマネジメントシステムの活用事例を紹介した。
“お困りコール”削減をグローバルで進めるシャープ
シャープでは、アフターサービスにおいてコールセンターをCS(顧客満足度)向上の中心的な部署とし、司令塔としての役割を担わせている。
顧客からの修理相談や修理依頼は、コールセンターに電話やメールなどで行われる。コールセンターオペレーターが、顧客からの問い合わせを受け、故障の診断やサービス員の訪問修理の判断する仕組みだ。しかし、コールセンターで訪問修理の判断をしたもののうちで実際に修理が必要ないケースが存在する。
シャープではこういうケースを「お困りコール」と呼んでいるという。このお困りコールの発生を抑えるため、国内でナレッジマネジメントシステムをコールセンターに導入。発生率を徐々に減らすことに成功したという。
シャープCS推進本部海外CS企画推進部副参事の中山善生氏は「国内では地上デジタル放送完全移行前の2010年にお困りコールの割合が非常に高くなった。2010年上期にはお困りコール数は約6万件に達し、訪問コストを含めると経営面での影響が大きくなり始めた。そこでナレッジチームを新たに組織し対策を開始。コールセンターで操作面でのトラブルなどを解決することで、お困りコール数の比率を下げることに成功した」と話す。
国内と同様の仕組みを海外に展開
国内と同様の動きは海外でも発生している。そこで日本と同じ仕組みを海外でも導入。2012年5月にインドネシア、2013年4月にオーストラリアのコールセンターにナレッジマネジメントシステムを導入した。ナレッジシステムは、日本語版の症例および解決策を英語に翻訳し、それを大阪のデータセンター上のグローバルナレッジシステムデータベースに英語版コンテンツとして収容する。それを各国の担当者が順次現地語に翻訳して活用する。また地域特有の問題点や解決策などを各地の担当者が登録していく仕組みだ。
インドネシアでは、本稼働までに液晶テレビ関連の解決策を50個、冷蔵庫関連の解決策を100個用意することを目標に取り組んだが、最終的にはそれぞれ目標を上回るコンテンツ数を用意することができたという。またサービス員の無駄な訪問は16%減少、ナレッジの活用率も当初の23.1%から、2013年5月には36.9%に引き上げることができたという。稼働したばかりのオーストラリアでも、問い合わせ1回での“一発解決率”が5%向上するなど、成果が出始めている。
コスト削減が最終目標
ただ、これらの成果は「期待よりもかなり低い」と中山氏。インドネシアではコールセンターのオペレーター用モニターの数を増やした他、全社でのコールセンターアワードを設置するなど、活用の活発化を推進中だ。
ナレッジマネジメントシステムの導入は明確な数値的成果を求めるのが難しい領域だが「最終的にはコスト削減効果を得ることが目標。それに向けて1つは活用率の向上を目標とし、活用率50%を早期に達成したい。活用率を上げ業務の効率化を図ることでコスト削減効果を生み出したい」と中山氏は話している。
世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.