再注目される“暗黙知”の管理――シャープ、牧野技術サービスの場合:ナレッジマネジメント(1/2 ページ)
国内熟練技術者の引退による技術承継や、海外でのアフターサービス業務の効率向上など、保有する知識を共有し、技術承継や海外展開を容易にするナレッジマネジメントシステムに再び注目が集まっている。PTCジャパンが開催したセミナーでは、シャープと牧野技術サービスが登壇し、ナレッジマネジメントシステムの活用事例を紹介した。
PTCジャパンは2013年6月26日、都内でナレッジマネジメントセミナーを開催し、シャープと牧野技術サービスが、活用事例を紹介した。
PTCジャパンでは、PLMシステムによる製品情報管理とともに、コールセンター業務やクレーム処理、パーツ管理などのライフサイクルを管理するサービスライフサイクル管理(SLM)を提案。PLMで管理する設計情報とSLMのサービス情報を連携させることで、フィールドサービスやコールセンター対応などの作業負担を軽減する一方、サービスで得られた情報を設計側に自動でフィードバックすることで、不具合の未然防止などを実現できることを訴えている(関連記事:サービス部門をプロフィットセンターへ――サービスは利益を生み出す宝の山)。
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今回はこのSLMシステムの中で、サービス部門において得られた知識情報を管理するナレッジマネジメントシステムに特化し、セミナーを開催。牧野技術サービスとシャープがナレッジシステムの活用事例や効果などについて説明した。
暗黙知のナレッジ化を図る牧野技術サービス
牧野技術サービスは、工作機械の牧野フライス製作所のサービス子会社。1977年に牧野フライス製作所から分離し、現在は牧野フライス製作所やマキノジェイの工作機械の据え付けや操作説明、故障診断、修理、販売などを担っている。
工作機械のサービス部門には、次の6つの特徴があるという。
- 多品種少量生産(全販売期間の販売量が数十台〜2000台)
- 製品の販売期間が長い(6〜10年)
- カスタマイズや改善設計変更が多い
- 製品のライフサイクルが長い(25〜30年)
- 故障が顧客のビジネス機会損失につながり、早い復旧が必要
- 多くの旧型機がアジア各地に移設(海外メンテナンスの必要性)
これらの状況下では、非熟練者の場合、顧客に呼ばれてから初めて旧製品を見るケースなども出てくる。一方で、顧客のビジネスに直結することから、故障した機械を少しでも早く復旧する“結果”が求められる。これらを運用するためには、フィールドサービスエンジニアが修理に必要な資料や情報を素早く利用できる環境が必要になってくる。
そこで牧野技術サービスではプロセス改善なども含めナレッジマネジメントシステムの活用を決定。熟練者と非熟練者の技術レベル差解消や、修理部品の過剰な持ち出し抑制、暗黙知の見える化などへの対応を進めた。
牧野技術サービス システムサポートセンタ部長の松下国弘氏は「知識の活用は効果が一番見えにくいところだが、熟練者たちがどんどん定年退職する中、暗黙知の見える化、技術の承継、などが大きな課題になっていた。10年後、15年後のことを考えて、導入を進めた」と話す。
プロジェクト名『One for All』
ナレッジマネジメントは、症例や問題に対し、知識を持ったエンジニアが解決策を提示し、それを集め、いつでも見られるようにするシステムだ。つまり解決策が集まらなければ、価値を持たない。そのため「みんなで作り上げる意識を醸成するため、プロジェクト名は『One for All』とした」(松下氏)。そして2010年に「Serve H.E.L.P.」としたシステムを稼働させた。
これらの成果もあり、2010年に1031件だった登録済み解決案数は、現在は2663件となり、その8割は英訳も完了済みだという。松下氏は「登録数は順調に増やしてきたが、必ずしも十分ではない。また、ノウハウ承継の観点から旧型機の解決策を優先したため、ニーズの多い現行機の解決策が手薄で、アクセス数がそれほど伸びないことも課題だ」と話す。今後はさらに海外での利用率向上や、他のグループ企業でも利用できるように枠組みを広げていく方針だという。
松下氏は「ナレッジマネジメントシステムの導入は経営側にも現場側にも理解を得ることが難しいが、専任者と利用者と共同で作り上げ維持していく体制を作ることが重要になってくる。まずは一歩踏み出し、そして諦めないことが重要だ」と話している。
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