白物家電を人手で1個ずつ作る日立――国内工場でなぜ:小寺信良が見たモノづくりの現場(4)(4/5 ページ)
大量生産品であれば中国など海外の製造拠点を使う。最先端の製品でなければ、このような取り組みが一般的だろう。日立アプライアンスは白物家電や環境家電でこれとは全く逆の方針を採っている。茨城県の多賀工場で生産し、さらに1個ずつ手作業で作っている。なぜだろうか。どうしたらこのようなことが可能になるのだろうか。小寺信良が報告する。
太陽光でも1人セル生産を採用
太陽光発電システムの生産では、太陽電池モジュール(パネル)以外を製造している。例えば、昇圧ユニットや接続箱、パワーコンディショナー、モニターユニットなどだ。採用する太陽電池モジュールは、95Wと160WモデルはCIS*3)タイプで国内のソーラーフロンティアから、195Wはシリコン単結晶タイプで、中国Suntech Sunshine Powerから調達している(図9)。
*3) シリコン(Si)を使わない太陽電池であり、銅(Cu)、インジウム(In)、Se(セレン)の薄膜結晶からなる。
Suntech Powerグループは日本でも5〜10%のシェアを持つとされている中国企業だ。2012年3月21日に太陽電池のセル生産を実行しているWuxi Suntech Powerに対して銀行団が会社更生法を申請した*4)。会社更生法が適用された場合でも再建に向けた支援を受けながら生産を続けるという。在庫も潤沢にあることから、日本市場への影響はないとされる。
*4) Suntech Powerグループは、Suntech Power Holdingの100%子会社Power Solar Systemが5つの100%子会社を従えるという組織構造を採っている。このうち1つがWuxi Suntech Power(無錫サンテックパワー)であり、主力の太陽電池セル工場などを保有している。太陽電池モジュール工場などは他の子会社が所有している。例えば、日本向けの製品の供給はWuxi Suntech Powerとは別の子会社Wuxi Sunshine Powerが担当している。
なお、日立アプライアンスでは既にSuntech Powerグループの195Wパネル採用製品は在庫限りとしており、ハイエンドモデルはトリナ・ソーラー・ジャパンの205W品に切り替わっている。
付加価値の高いパワーコンディショナーに強み
日立アプライアンスの太陽光発電システムの特徴は、高効率のパワーコンディショナーだ。業界トップクラスといわれる変換効率96%を実現している。2012年10月に完成した新しい建屋で製造しているところだ。基本は受注生産であるため、まだ生産ラインは少なく、現在5人で作業を進めている。最終的には月産600台を目標としている。
パワーコンディショナーは複雑な機器であり、セル生産を採用している(図10)。1人で担当して、現在は1台の組み上げに30〜40分を要しているが、作業手順の検討や合理化を試み、1カ月で3分ずつ短縮していく計画だ。最終的には、半分の時間で製造できるまで最適化するという(図11)。
性能検査では、50Hzと60Hzそれぞれ、連系運転と自立運転など、35項目を通過して初めて合格する。以前は全て手作業であったため、相当の時間がかかっていた。現在はこれを自動化し、15分から20分で終了するようになった。
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