白物家電を人手で1個ずつ作る日立――国内工場でなぜ:小寺信良が見たモノづくりの現場(4)(3/5 ページ)
大量生産品であれば中国など海外の製造拠点を使う。最先端の製品でなければ、このような取り組みが一般的だろう。日立アプライアンスは白物家電や環境家電でこれとは全く逆の方針を採っている。茨城県の多賀工場で生産し、さらに1個ずつ手作業で作っている。なぜだろうか。どうしたらこのようなことが可能になるのだろうか。小寺信良が報告する。
1周回ってもう一度“オール電化”へ
“オール電化”という考え方は、家庭内で用いる全てのエネルギー源を電力に統一するというもので、1980年代後半から家電メーカーと電力会社のタッグにより推進された。屋内で火を使わないという観点から、安全、クリーン、省エネであるとしてもてはやされた。特にバブル期と重なっていたため、オール電化をうたうマンションや戸建て住宅などが数多く建設された。
しかし現在は、オール電化はなかなか推進しづらいスローガンである。特に2011年の福島第一原子力発電所の事故により、電力への依存度を減らすという考え方が各家庭に芽生えた。さらに昨今は米国での安価なシェールガスの開発、日本でもメタンハイドレート*1)の可能性が見えてきたことで、これからは電気ではなくガスなのではないか、と考える人もあるだろう。
*1) シェールガスとは頁岩(シェール)と呼ばれる泥が固まって形成された岩石から抽出した天然ガス資源。地表から地下3000m程度へパイプを伸ばして、爆破、加圧操作によって取り出す(関連記事:「日本のエネルギーは今後どうなる」)。メタンハイドレートとは、低温、高圧下で安定な水とメタン(CH4)からなる物質。日本近海では水深1000m程度の深海や深海の地下から採取する必要がある。シェールガスとは異なり商業的な採掘技術は未開発の段階にある。
しかし日立アプライアンスが独自にオール電化への需要を地域別に調査したところ、このような思い込みは必ずしも正しくなかった。例えば、東北地方では急速にオール電化への需要が高まっていることが分かったという。例えば震災後に採用したくなった設備として、太陽光発電、次いでLED照明という順になった。
確かに事故は福島県で起こったが、問題の原子力発電所は東京電力の施設であり、電力不足に陥ったのは東京電力管内である。逆に東北電力が抱える女川原子力発電所では、震災後全て無事に自動停止し、安全性を確保したばかりか、避難する地元住民を施設内に受け入れ、食事などを提供した。さらにはライフラインのうち、電力がすぐに復帰したことから、電力への信頼が逆に上がるという結果となったことがうかがえる。
日立アプライアンスではこのような背景の基に、新環境分野としてもう一度オール電化へ挑む。以前からオール電化の主力であるIHクッキングヒーターに加え、LED照明やエネファーム、太陽光発電システムの製造に力を入れる。
LED照明では、一般家庭向けの電球をリプレースする製品をはじめ、蛍光灯に替わる直管型LEDライト、シーリングライト、さらに従来の水銀灯に替わる高天井用の投光器などを製造する。
同社では光源のLEDチップそのものは製造しておらず、その都度性能やコストのバランスを見ながら、チップ購入かあるいはモジュール購入か、最適なものを選択するという。現在モジュール化する工程として自社製造ラインを持っており、これは月産で400万モジュール程度の生産能力がある。製品の生産能力としては、月産でLED電球4万個、LEDシーリングライト3万台、直管型LEDライト2万5000本、高天井用投光器1500〜2000台、家庭用蛍光灯シーリングライト「マルチリング」2万台となっている。
2011年度末の時点では、LEDライトは約150機種であったが、2012年度末までに約650機種に拡充した。現在LED電球は、E26口金*2)光配光タイプのうち、50W相当以上でシェア17%、シーリングライトは8畳以上のタイプでシェア15%となっており、さらに拡充を目指している。
*2) E26とは、10〜200W程度の白熱電球で一般的な口金(ソケット)の形状。小型のソケットとしてE17などがある。
LED電球の製造は、非常にコンパクトなセル生産方式を利用している(図7)。LEDモジュールのはんだ付けなどは自動化されているが、そのすぐ横で手作業によって生産している。部品を人間工学に基づいて集約し、手順を整理することで、組み立てから試験、梱包(こんぽう)に至るまで全て1人でこなせる。
一方、業務用蛍光灯として普及している110W、2.4m長の蛍光灯に替わる直管型LED照明は、LED基板7枚を直線につなぎ合わせて製造している。作業台の下に検品装置があり、規定の長さ、明るさ、色味であることを確認して梱包する(図8)。
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