グローバル企業として生き残るには――ボッシュ栃木工場に見るニッポンクオリティ:小寺信良が見たモノづくりの現場(2)(1/5 ページ)
自動車の品質とコストを支えているのは誰か。多くの部分を下支えしているのが部品メーカーだ。自動車部品メーカーの1つ、ボッシュ。その栃木工場の工夫を、小寺信良氏の目を通して語っていただいた。品質向上への努力とはどのようなものなのかが分かるだろう。
モノづくりの世界において、日本にはワールドワイドで勝負できる企業が多数存在する。そもそも戦後から1973年ごろまで続いた高度経済成長とは、工業製品の輸出に裏付けされたものであり、その背景には安価な労働力、固定相場制による円安、安定した石油供給網などの好条件があった。だがそれらの条件は今や成り立たなくなり、世界の工場は中国へ、そして最近では東南アジア地域へと移りつつある。
現在輸出品を作るという目的においては、日本という国は条件としてかなり厳しくなった。日本独自に切磋琢磨してきた製品は、確かにクオリティは高いが、ワールドワイドで見れば過剰品質であり、あまりに高コストだという意見も聞かれる。
しかしその一方で、日本で製造しなければ十分な品質を保証できないものがある。安全や命に直接かかわる部分だ。
ボッシュの栃木工場(図1)は、まさにその部分を担当する。ここは自動車用のアンチロックブレーキシステム(ABS)や横滑り防止装置(ESC)、スピードセンサー、吸気圧センサーの製造に関して、長い歴史がある工場だ。ABS生産を目的として、1984年にドイツのRobert Boschと日本エヤーブレーキ(当時、現在はナブテスコ)の合弁会社として設立された日本エービーエスが母体となっている。
自動車機器に強いボッシュ
そもそもボッシュと言えば、一般の人にとっては、電動工具の大手メーカーという認識ぐらいしかないのではないか。しかしRobert Boschを中心とするグループ全体としては、自動車機器分野が最も大きく、売上高全体の59%を占める。その他、風力発電のギヤボックスや包装機械といった産業機器、冷暖房、セキュリティシステムなど、さまざまな事業分野を抱えるグローバル企業である。
日本国内にもボッシュグループ*1)として14の工場を持ち、研究・開発拠点も10カ所。2011年に日本進出100周年を迎えたという。日本においては、最大級のドイツ系企業と言っていいだろう。
*1) 国内にはRobert Boschのグループ企業がボッシュ以外に6社ある。
さて、外資系グローバル企業にとって、日本に生産拠点を存続させるメリットとは、当然、経済性や量産性ではない。"日本でなければ"のアドバンテージを生み出し、アピールしていくのは、その日本の生産拠点で働く日本人自身である。
今回はボッシュ栃木工場を見学する機会に恵まれた。ここでの取り組みから、これからの"日本ブランチの生き残り方"を見いだせるのではないか。
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