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アップルの“計画的長寿命化”戦略に学べ本田雅一のエンベデッドコラム(19)(2/2 ページ)

短いサイクルで次々に新製品を発売し、過去の製品を意図的に陳腐化させて、モノを売る“計画的陳腐化”戦略では、このクラウド時代に生き残ることは難しい。ユーザーに、高い満足度や所有感をしっかりと与えながら、製品を長く使ってもらうことで次につなげる。選ばれるモノづくりをAppleの戦略から学ぶ。

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計画的長寿命化

 「iPhone 3G」が日本で発売された時、筆者は「1年に1回程度、新たなハードウェアを発売しながら同時にiPhone Softwareをアップデートし、少なくとも2世代分のハードウェアを新しいバージョンのiPhone Softwareでサポートするだろう」と、あるコラムに書いた。

 これは、iPhoneが多くの国において、キャリアとの2年契約を前提に販売していることから予想したものだ。アップルは、筐体デザインやソフトウェアの面で工夫し、高い満足度や所有感をiPhoneユーザーに長期間提供することで、購入から2年経過して縛りのなくなったユーザーに、引き続き、最新のiPhoneを購入してもらいたい考えだ。

 もし仮に「買い替えを考えているけれど、今の製品に大きな不満がない」とするなら、多くのユーザーが以前と同じメーカーの製品を選択するのではないだろうか。このことがiPhone、ひいてはアップル製品の魅力につながっているように思う。

 いうなれば、アップルによるハードウェアの“計画的長寿命化”戦略である。これまでは、製品の長寿命化を図ると買い替えペースが落ち、結果キャッシュフローが減るため、業界全体の景気が悪くなるとされてきた。しかし、今はハードウェアだけで価値を創造しているわけではない。ソフトウェアやサービスが一緒になってこその商品だ。ハードウェアの性能が相対的に落ちていくのは世の常でも、機能はソフトウェアとサービス(特にクラウド側の強化とそれに伴うユーザーインタフェース実装の変更)で、最新のものを入手可能にする、といった計画的長寿命化を仕掛けやすい環境にある。

 アップルのブランド価値が急速に高まっていった背景には、「購入から数年たった買い替えのタイミングにも、しっかりと一線級の質感や機能を備えていていること」が大きい。しかも、モノとしての所有感や機能性、飽きの来ないデザインなどに十分なコストを掛けて、ユーザーにハードウェアを長く使ってもらう、この計画的長寿命化戦略は、iPhoneだけで実施しているわけではない。

 この手法は、「MacBook」「MacBook Pro」「MacBook Air」「Mac Pro」「iMac」などでも以前から行われてきた。筐体デザインやユーザーインタフェースを大きく変更せず、ひたすらにソフトウェアを動かす道具、プラットフォームとしての付加価値を高める方向で製品をリリースしてきた。

 例えば、性能面では古くさくなった初代MacBook Airを見返して、古くさいハードウェアだと感じるだろうか? 確かに性能は悪い。プロセッサは旧式で、陳腐なハードウェアスペックだが、手に取って触れてみると今でも十分な新鮮さを質感やデザインから感じられる。

初代MacBook Air
初代MacBook Air

クラウド時代の価値観

 筆者は、アップルの戦略をそのまま引用して、自社戦略に応用すべきだというつもりはない。しかし、さまざまな製品分野において成熟が進んできた昨今、買い替えするタイミングで、どのように製品・ブランドについて消費者が感じているかを、もっと重視すべきという反省材料になると思う。

※イメージ画像
※イメージ画像

 今はクラウドの時代だ。クラウドにはさまざまなアプリケーションやコンテンツといった価値が流れ込んでいる。言い換えるならば、クラウドを通じて継続して新しい機能を取り込んでいけるということだ。

 製品を設計する際には、そうしたクラウドが内包する価値をハードウェアを通じて感じられるように作り、サービス側を改修することで機能アップを図っていくなど、ライフタイムサイクル全体における継続的価値の提供を意識したい。

 ハードウェア単体の開発を基準にして進化のロードマップを組むのではなく、ハードウェアをプラットフォームとして、クラウドを中心に価値を提供するよう計画することが重要になる。ハードウェアの陳腐化を意図的に進めるのではなく、粛々と技術トレンドに合わせてプラットフォームの性能を更新し、ソフトウェアとサービスで新たな提案をしていくのだ。

 よく「この製品は、ユーザー目線で作りました」というせりふを耳にするが、大抵の場合、「購入時のユーザー目線」しか考えられていない。もちろん、それはそれで重要なことなのだが、数年後、その製品を購入した人が、同じメーカーの新製品を購入してくれるとは限らない。そのカギを握るのは、製品寿命が尽きる瞬間、買い替えの時点で「まだ捨てるには惜しい! もっと使っていたい!!」と思ってもらえるかどうかだろう。計画的に長寿命化することでブランドロイヤルティーを上げ、買い替え時に気持ち良く乗り換えられる。そんな製品を出していかなければ、このクラウドの時代に生き残ることは難しい。


筆者紹介

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本田雅一(ほんだ まさかず)

1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。

Twitterアカウントは@rokuzouhonda

        近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)


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