クラウドの浸透に伴う“機器の汎用化・長寿命化”を意識したモノづくり:本田雅一のエンベデッドコラム(8)(1/2 ページ)
かつて手元の機器の中で動作していたソフトウェアやサービスが、どんどんクラウドに取り込まれていく。こうした流れに伴い、新製品の企画や実装される新しい機能はクラウド連携を前提としたものとなっていく。――これを繰り返していくと、その先には「機器の汎用化と長寿命化」が待っている。
“何でもできてしまう万能な装置”は、かつては不便極まりなく、機能や性能も中途半端で、結局は使い物にならないか、あるいは使いづらくて使用する気になれないものばかりだった。例えば、初期のPCはその典型的な例だといえる。
私はプログラミングが好きになり、趣味としてPCを使い始め、その後、通信の魅力に取りつかれたことで、コンピュータと縁の切れない生活を始めた。以来、PCを伴侶として生活していると錯覚するぐらい、共に過ごしている時間が長い。こうした長い共同生活を我慢できた(続けてこれた)のは、ひとえにコンピュータというものを理解しようと自らが努めたからだと思う。
しかし、現実的には、誰もが同じような努力をするわけではない。PCを使いこなそうと強く思わない者にとって、当時のPCは本人が思っているほど何の役にも立っていなかったように思う。
文書を打ち込むだけなら、ワープロ専用機の方がよほど効率的に作業できたし、何より突然、画面がフリーズして数時間分の作業が無駄になったことを悲しむ必要もない。そして、本来PCを使いこなすことが目的ではないのに、わざわざPCの基本的な使い方と、なるべくハングアップさせずに使うためのコツをつかんでから、やっとアプリケーションの習熟について学ぶという面倒な手順を踏まなければならなかった。――なぜあれだけPCを皆が使おうとしたのか。今ではその理由を正確に思い出すことすらできない。
だが、何かのタイミングで臨界点を超えると、“何でもできる装置”しか世の中には残らなくなる。当時、あれだけ作業効率が悪いと文句を浴びせられていたPCが、今や臨界点を超えて、あらゆるアプリケーションがPCのソフトウェアとなっていった。PCの中に、いろいろな価値が吸収されていったと見ることもできる。
――今、起きていることも同じようなことだ。
PCや情報機器の範囲を超えたクラウド活用が活発化
PCのソフトウェアで実現していたこと、社内に設置したサーバが果たしていた役割。これらはどんどんクラウドの中に溶け込んでいる。クラウドに溶けていっているのは、PCのソフトウェアだけではない。デジタル化されたコンテンツも、光ディスクやメモリカードなどを介して流通するのではなく、クラウドとして提供されるようになってきた。
もちろん、クラウドの中にあらゆる価値が吸い込まれていくといっても、パフォーマンスや回線遅延などによる限界もある。しかし、クラウド自身も常に進化し続け、ある臨界点を超えて能力が高まってくると、クラウドへのアプリケーションの流入は止まらないどころか、どんどん加速を始めるようになる。このような話は、最近、全く珍しいものではない。
いろいろなところでクラウドや、クラウドを活用する手段について語られている。クラウドの活用はPCや情報機器の範囲を超えて、一般のデジタル家電の領域にまで入ってきている。デジタル家電の使いやすさや機能の向上といった部分に、クラウドの力をどう使おうかと皆が同じように考えている。
自分が関わる製品をどう作るか、今やその構成方法について、“ネットワークサービスをどう使うか”に頭をひねる比重を増やさねばならない。クラウドに価値を求めるだけでなく、状況によっては家庭内にあるPC、レコーダー、NASなどの中に“仕込み”を入れて、連携する機器をリッチに見せるといった製品もある(例えば、ユーザーインタフェース要素を、グラフィックス含めて全て無線LANで手元のデバイスに飛ばすなど)。
もっとも、そうした製品の作り方は何年も前から行われており、今はその適応ジャンルがどんどん広がっている状況ということだが、ふと足元を見つめ直すと、新しいフェーズに入っているように思う。
かつて手元の機器の中で動作していたソフトウェアやサービスが、どんどんクラウドに取り込まれていく。こうした流れに伴い、新製品の企画や実装される新しい機能はクラウド連携を前提としたものとなっていく。――これを繰り返していくと、その先には「機器の汎用化と長寿命化」が待っている。
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