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クラウドの浸透に伴う“機器の汎用化・長寿命化”を意識したモノづくり本田雅一のエンベデッドコラム(8)(2/2 ページ)

かつて手元の機器の中で動作していたソフトウェアやサービスが、どんどんクラウドに取り込まれていく。こうした流れに伴い、新製品の企画や実装される新しい機能はクラウド連携を前提としたものとなっていく。――これを繰り返していくと、その先には「機器の汎用化と長寿命化」が待っている。

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クラウドの発展・浸透の先にあるもの

 「機器の汎用化」とは、“専用に作り込んだ製品ではなく、ソフトウェアとサービスで提供される価値をシンプルに享受する製品の方が、ずっと魅力的に見えるようになる”ということだ。

 この考え方は、今では何のことはない。ボイスレコーダーも、デジタルカメラも、写真ビュワーも、音楽プレーヤーも、ビデオプレーヤーも、PCでやっていた仕事の一部も、全てスマートフォンやタッチパネル付き音楽プレーヤーなどで賄えてしまう。もちろん、専用の機械には汎用の機械では得られない別の価値があるが、たった1台で全てがカバーできるとなれば話は変わってくる。

 多種多様のアプリケーションがクラウドに吸い込まれていくだけでなく、クラウドを前提にした汎用デバイスの中に、多種多様なハードウェアも吸い込まれている。

 それだけならば、まだ話は単純だったかもしれない。汎用機にはマネのできない良さを、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで実現すれば、製品の磨き込みによる進化と、汎用機への取り込みというサイクルで進化できるからだ。

 ところが、クラウド型サービスに付加価値を多く依存しているということは、クラウド側のアップグレードによって、それを使っているデバイスの価値も上げることができるということだ。例えば、音楽や映像のストリーム配信サービスが、より高音質、高画質になったとしたら、そのサービスに対応したネットラジオやIPTV端末の付加価値は高まる。

 単なる写真アルバムサービスだと思っていたら、いつの間にか顔認識機能が付加され、家族の顔を登録しておくと、素早く写っている思い出の写真を、対応するフォトビュワーで探せるようになるかもしれない。

 クラウドの中に価値を求めるようになると、一部の専用機は何でもできる汎用端末の中に溶けていき、汎用端末の性能が十分であれば買い換えサイクルも長くなる。現時点ですぐにサイクルが短くなるわけではないが、中長期的に見れば長くなる。扱うコンテンツや機能の負荷によって、徐々に端末への要求性能は高まるだろうが、重い処理はクラウド側で実行するとの前提でいえば、ユーザーとの接点でしかない端末性能への要求度は、かつてのPCよりもずっと低いと考えていいだろう。

 そして、この先に待っているのが「端末の長寿命化」だ。複数の専用機が1台の汎用機に統合されていき、買い換えサイクルも長くなるということは、機器メーカーのキャッシュフローが時間をかけて減っていくということだ。機器メーカーは、これから長寿命化を前提にして、次々に出てくるアプリケーションへの適応性を高め、可能ならばアプリケーションの流通に直接関わることで、自らの領域を広げていく必要がある。

 漠然とした話のように聞こえるかもしれないが、話はそれほど複雑ではない。クラウドを活用し始めた先に、製品の長寿命化があるならば、デザインやカラーバリエーションなどで定期的な製品のアップデートを行う、といったモデルチェンジは避けるべきだ。デザインや素材、加工にコストを掛け、長期間使っても陳腐さを感じさせない製品に仕上げ、それを5年といった長期的な視野で回収する方法を考えるべきだ。

 長寿命化に対応したモノづくりを行うことができたなら、次に買い換える際にユーザーは同じメーカーの製品を買いたいと感じる。それが発売されて半年後には、「まるで骨董品のようになってしまった!!」と感じさせてしまうと、同じメーカーの次の製品を買うかどうか、忠誠心が維持できるか、といった設問に対しては否定的になる。

 そしてもう1つ、メーカー自身がアプリケーションの流通に関わっていくことである。もともとは機器の中にあった付加価値がクラウドに溶けたのであれば、機器を通じてクラウドの価値へと接続することでエンドユーザーに同じ価値を届ければいい。長寿命化の中でデジタル機器のエコシステムを少しでも大きくしなければならない。そうした考えによるならば、機器のアップグレードに対して料金を受け取れる仕組みを考えるべきだ。

筆者紹介

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本田雅一(ほんだ まさかず)

1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。

Twitterアカウントは@rokuzouhonda

           近著:「インサイド・ドキュメント“3D世界規格を作れ”」(小学館)


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