韓国に負けたのか日本企業、燃料電池で東芝とパナが健闘:知財ニュース(3/3 ページ)
家庭の据え置き用途、燃料電池車、携帯型用途……。燃料電池は発電効率が高い他、燃焼ガスの発生が少なく発電技術だ。動作音が静かであることも他の発電技術と比較して有利だ。燃料電池の研究開発は米国で始まり、日本と米国を中心に実用化が進んでいる。では特許戦略では日本は優位にあるのか。
どの分野に注力しているのか
以上の調査結果は、固体高分子形燃料電池(PEMFC)と溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)に限って調べたものだ。燃料電池にはこれ以外の方式もある。そこで、パテント・リザルトは出願件数が多かった上位10社について、各種の燃料電池にまたがった調査も行った(図3)。
対象としたのは、固体高分子形燃料電池(PEMFC)と溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)の他、直接アルコール形燃料電池(DAFC)と直接メタノール形燃料電池(DMFC)、動作温度が高い固体酸化物形燃料電池(SOFC)である(燃料電池の種類の違いについては記事末の囲みを参照)。
図3を見ると、総合家電メーカーと自動車メーカーの違いがはっきりと分かる。図の上から3行に示したSamsung SDIと東芝、パナソニックは、直接メタノール形燃料電池(DMFC)や固体高分子形燃料電池(PEMFC)に関する出願が大半を占めている。なお、Samsung SDIの最新の傾向を見ると、2010年以降、固体酸化物形燃料電池(SOFC)分野への出願を増やしている。
一方、ホンダと図には掲載されていないもののトヨタ自動車は固体高分子形燃料電池(PEMFC)と固体酸化物形燃料電池(SOFC)に関する出願が多い*3)。
*3)両社は、2002年12月に世界初の燃料電池車(FCV)のリース販売を開始している。両社ともPEMFCを用いていた。
パテント・リザルトは、今回の分析に加えて、ランキングトップ30の他、競合状況分析マップなどをまとめたリポート資料を販売している。
燃料電池にはどのような種類があるのか
燃料電池とは、水素と酸素をゆっくりと反応させることで、電子の流れ(電流)と水を生み出す装置をいう。今回調査対象となったのはいずれも1980年代以降に開発が進んだ燃料電池である。
燃料電池は複数の方式があり、利用可能な原燃料や動作温度、発電効率が異なり、用途が分かれる。
固体高分子形燃料電池(PEMFC)は最も産業規模が大きく、携帯機器の他、日本国内では「エネファーム」などに利用されている(図A-1)。
図A-1 PEMFCのモデル 左の燃料極と右の空気極の間に電解質(固体高分子膜)を挟み込んだサンドイッチ構造を採る。燃料極側から水素(H2)を供給し、水素イオンのみが空気極に移動して、酸素と結合する。電流(赤い線)を燃料電池の外部に取り出して利用する。電解質には有機物のスルホン酸膜を利用することが多い。
直接メタノール形燃料電池(DMFC)は直接アルコール形燃料電池(DAFC)の一種である。PEMFC、DMFC、DAFCという3種類の燃料電池はいずれも100℃以下の低温で動作する。
溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は650〜700℃で動作し、工場などの動力源として考えられている。固体酸化物形燃料電池(SOFC)は動作温度が900℃前後と高い。全ての燃料電池のうち、最も効率が高く、新型のエネファームなどで実用化されている。MCFCの電解質は溶融炭酸塩、SOFCの電解質はセラミックスからなる。
より深く知的財産管理を学ぶには?:「知財マネジメント」コーナーへ
知財マネジメントの基礎から応用、業界動向までを網羅した「知財マネジメント」コーナーでは、知財関連の情報を集約しています。併せてご覧ください。
関連キーワード
燃料電池 | 知財で学ぶエレクトロニクス | 特許 | Samsung | 知的財産 | 東芝 | パナソニック | 韓国 | 知財ニュース(製造マネジメント) | 知財コンサルタントが教える業界事情 | ランキング | 米特許商標局
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 知財コンサルタントが教える業界事情(9):固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術〔前編〕SOFC開発競争の動向を知財から読む
高分子形燃料電池登場のわずか1年後に、固体酸化物形燃料電池が登場。その裏にはどんな技術開発の歴史と事業開発競争が隠されているのだろうか? 今回は出願年に注目したいので、商用特許情報データベースを試用する。 - 燃料電池の有力特許、日本企業が上位5位中3社を占める
ホンダ、トヨタ自動車、パナソニックが米国特許の上位5位に食い込み、出願件数だけではなく特許の強さでも評価に値するという。 - 電気料金値上げに「対抗」するには
電気料金の先行きが怪しい。長期的な見通しは難しいものの、料金が下がる見込みは薄いだろう。電力会社に頼らず、電気料金を下げる方法はないだろうか。2012年に入って改善が急速に進む「エネファーム」に焦点を当てた。