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固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術〔前編〕SOFC開発競争の動向を知財から読む知財コンサルタントが教える業界事情(9)(1/3 ページ)

高分子形燃料電池登場のわずか1年後に、固体酸化物形燃料電池が登場。その裏にはどんな技術開発の歴史と事業開発競争が隠されているのだろうか? 今回は出願年に注目したいので、商用特許情報データベースを試用する。

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 「第7回 水素・燃料電池展(FC EXPO 2011)」(2011年3月2〜4日)で展示されて注目を集めた、JX日鉱日石エネルギーの家庭用燃料電池システム「エネファーム」が2011年10月17日に発売されました*。

エネファーム
JX日鉱日石エネルギーの家庭用燃料電池システム「エネファーム」(環境技術フォーラムの記事より)

 このシステムには、京セラ製の固体酸化物形燃料電池SOFCSolid Oxide Fuel Cell)セル搭載との報道がありました。固体高分子形燃料電池PEFCPolymer Electrolyte Fuel Cell)搭載「エネファーム」登場からわずか1年後に、製品化がなされたことになります。

 そこで、今回は2回シリーズ(前編・後編)で、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を取り上げてみたいと思います。

 前編では、米欧豪のSOFC技術開発の経緯を振り返り、海外企業の技術開発と今後の事業開発に注目してみます**。後編では、家庭用SOFC事業化を目指す日本企業の技術開発状況について、特許情報を用いたマクロ視点からの調査をしてみたいと思います。

 まずは、PEFC対抗製品として浮上したSOFCの米欧豪における開発状況に注目してみましょう。


*JX日鉱日石エネルギーのニュースリリース参照。
**燃料電池を巡る技術開発と事業化については、本連載末尾の「燃料電池―技術開発・事業開発・知的財産の視点から見るとどうなる?」を参照ください。


米欧豪のSOFC開発の開発動向は?

 SOFC技術開発のブレークスルーは、1980年代にウェスティングハウス・エレクトリック(以降、ウェスティングハウス)によってなされました。ウェスティングハウスは、基本的な材料を選定しただけでなく、製膜方法(電気化学的蒸着法:多孔体に緻密な薄膜を形成)を開発して、円筒縦縞型シールレス構造を考案し、SOFCスタックを製造することに成功し、その性能が良好であることを実証しました。

 とはいっても、真空容器中で製膜するため製造コストが高く、1セルの長さが円筒の半周部分に当たるため出力密度を高くできない(0.2W/cm3)ことが実用化の技術課題でした。

図1 ウェスティングハウスの提案したSOFC円筒縦縞構造と構成材料
図1 ウェスティングハウスの提案したSOFC円筒縦縞構造と構成材料

 現在、米国では「SECA(Solid State Energy Conversion Alliance)*プロジェクトのフェーズ2」が進行していますが、SOFCは石炭&電力システム技術と位置づけられています**。つまり、産業用発電規模のSOFCを目指していると推測されます。


*SECA 1999年に設立された産学官連携でのSOFC開発プロジェクト。詳細はWebサイト参照。
**SECAプログラムの内容リンクを参照(PDF)。


 ところが、システム事業者として参加していたGeneral Electric(GE)が抜け、Fuel Cell Energy(FCE)とSiemensの2社に絞られ、残されたFCEとSiemensの両社が石炭をガス化させたものに対応するSOFCシステムに取り組んでいました。しかしながら、2010年には不採算を理由に、Siemensの燃料電池事業売却が伝えられており、現在では、SiemensはSECAプロジェクトからも脱退しているようです。

 SECAプロジェクトでは、SOFC実用化を目指して、耐久性や劣化防止の技術開発が進められていますが、米国のことですから、軍事利用を想定した分散電源車なども開発テーマに加えられています。

 従って、家庭用定置型SOFCで技術開発競争を進めている日本の現状とは大きく異なっています*。

図2 SECAにおけるシステム担当企業の動向
図2 SECAにおけるシステム担当企業の動向

 海外企業で、中小型定置用SOFCに取り組み、商品化している企業はCeramic Fuel Cells(オーストラリア)とNexTech Materials(米国)くらいでしょう**。

 2010年には、Bloom Energy(米国)のSOFCが、GoogleやeBayといった大手企業のサーバ用電源として採用されて話題になりました。そして、2011年7月にはAT&Tにも採用され、Bloom Energyは着実な事業展開を進めています。現在のところ、燃料には天然ガスを使っていますが、将来的には燃料としてバイオマスなども視野に入れているようですから、いずれは家庭用燃料電池システムにも取り組むものと推測されます。


*日本企業で、発電規模の大きいSOFCを目指しているのは三菱重工や関西電力でしょう。
**Ceramic Fuel CellsはSOFCの空気極(カソード)の金属成分の酸化を防止するコーティング技術の特許権を持ち、NexTech Materialsにライセンス供与しています。しかしながら、両社とも日本への特許出願はほとんどありません。
なお、それぞれ下記の出願人名で検索してみました。
  ・Ceramic Fuel Cellsの日本特許出願人名:セラミック・フューエル・セルズ・リミテッド
  ・NexTech Materialsの日本特許出願人名:ネクステック、マテリアルズ、リミテッド


 それでは、ここでCeramic Fuel Cellsの海外事業展開に注目してみましょう。

 2008年には、日本市場向け小型燃料電池コジェネレーションシステム(m-CHPmicro-Combined Heat and Power)製品の開発を目指し、パロマとの契約締結と報じられましたが、その後の動きは見えていません。そして、2010年に米国で発表/発売された「BlleGen」は、天然ガスを燃料に用い、高効率で電気と熱に変換させており、米国企業との提携も進められているようです。

 それだけではなく、Ceramic Fuel CellsはE.ON(ドイツ:欧州有数の電力・ガス事業)、EWE(ドイツ:電力・ガス・通信事業)、GdF Suez(フランス:電気・ガス事業)、大阪ガス(日本:ガス事業)といった海外のエネルギー供給企業との提携関係も既に確保しています。

 それに対し、欧州では以前からSOFC劣化問題の抽出とその解決法に関する検討が盛んです。SOFC開発を支援する「Real-SOFC(Realising reliable, durable, energy-efficient and cost effective SOFC systems)*」があり、2.5Kw級のSOFC開発を目指したFlame-SOFCフェーズ1(2005-2009)に続き、現在はFlame-SOFCフェーズ2(2010-)が進められています。

 さらには、600℃という低温で作動するSOFC開発を目指す「SOFC600(2006-2010)」**や、湿式法によるセラミック電解質膜の製造方法の確立を目指す「ADOPTIC(2006−2010)」***も進められています。


*Real-SOFCのWebサイトを参照。
**SOFC600のWebサイトを参照。
***ADOPTICのWebサイトを参照。

図3 Real-SOFCとFlame-SOFC、SOFC600、ADOPTICの相互関係
図3 Real-SOFCとFlame-SOFC、SOFC600、ADOPTICの相互関係

 以上のことから、欧州では業務用発電レベルを目指した基礎的な技術開発が進められているように思えます。

 つまり、少々乱暴な言い方をすれば、欧米のSOFC技術開発は、エネルギーに対する国家/地域戦略の一環として位置付けられていることになります。

 次に、日米欧豪・中国・韓国におけるSOFC関連特許の出願状況を紹介しておきましょう*。


*なお、今回はCeramic Fuel Cellsの本拠地があるオーストラリアにも注目してみます。



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