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家庭の電力の7割をまかなう燃料電池スマートグリッド(1/3 ページ)

燃料電池の改良が進んでいる。高温で動作するSOFCと呼ばれる燃料電池が家庭向けに初めて実用化された。JX日鉱日石エネルギーはSOFCを組み込んだエネファームを製品化。二次電池や太陽電池と合わせたシステム化も進める。

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 燃料電池は空気中の酸素と、水素などの燃料を直接接触させず、電解質を通じてイオンを移動させることで、電子の流れ(電流)を取り出す装置だ。炎が生じるような燃焼はなく、静かで制御された反応が進む。

 こう書くと実験室の中だけで使われる装置のように聞こえる。確かに最初に燃料電池が実用化されたのは、NASAのジェミニ宇宙計画だ。しかし、現在は住宅や自動車、携帯型機器と組み合わせて幅広く使われる道が開けている(燃料電池一般については3ページ目を参照)。

 住宅用の燃料電池として普及が進んでいるのが、エネファームだ。エネファームとは都市ガスやLPガスを燃料電池に通して発電し、発電時の排熱でお湯も作り出す住宅用のコージェネレーションシステム機器の統一名称。JX日鉱日石エネルギーや東芝、パナソニックなどが開発し、東京ガスなどのガス会社を通じて販売されている。

 エネファームはこれまで省エネルギー機器として製品化されており、必ずしも発電装置としては捉えられていなかった。この流れを変えたのが、JX日鉱日石エネルギーだ。

 同社は発電効率が高く、小型の燃料電池を採用した「SOFC型エネファーム」の発売を2011年10月17日*1)に開始する(図1)。

*1)運転データを提供可能なモニターユーザー270人に優先して販売し、一般販売は2012年1月ごろから開始する。運転データは今後展開するエネルギー診断サービスに活用する。新エネファームの価格は、発電ユニットと貯湯ユニット、2種類のリモコンを合わせたシステムで270万円(工事費別)。現行機種(PEFC型)の価格は270万円(準寒冷地仕様は280万円)と同じだ。ただし、平成23年度「民生用燃料電池導入支援補助金」(補助額上限105万円)の申し込みは、2011年7月7日で終了しているため、政府補正予算などに盛り込まれない限り、補助金は受け取れない。

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図1 JX日鉱日石エネルギーのSOFC型エネファーム 燃料電池を内蔵する発電ユニット(幅563mm×奥行き302mm×高さ900mm)と貯湯ユニット(幅740mm×奥行き310mm×高さ1760mm)、2種類のリモコンからなる。発電ユニットの出力は700W、貯湯ユニットの容量は90l (75℃)。発電ユニットはダイニチ工業に製造委託し、貯湯ユニットは長府製作所に製造を委託した。出典:JX日鉱日石エネルギー

軸足を給湯から発電へ移す

 従来型エネファームからの改良点は2つある。まず、内蔵する燃料電池を従来の固体高分子形燃料電池(PEFC)から固体酸化物形燃料電池(SOFC)に変更することで、発電効率を従来比8%(LPガス仕様)〜10%(都市ガス仕様)高め、45%に改善した。「発電効率は世界最高である」(同社)。効率が高いため、24時間連続運転することにより、家庭で使用する電力の70%をまかなえるという。これは一戸立て住宅4人家族で、電力需要が450kW/月、給湯需要が1200MJ/月とした場合の試算値だ。

 ただし、総合熱効率(発電効率+熱回収効率)自体は、SOFC型とPEFC型のどちらも87%であり、変わらない。出力する電力と給湯の比率を変え、これまでのエネファームとはいくぶん異なる製品に仕上げた。「SOFC型は発電効率を上げやすいため、給湯機能よりも、得られる電力が多くなる設計を採った。貯湯ユニットの容量は従来の200l から、90l に減らした」(同社)。従来のエネファームは節電用途を狙っていたが、発電用途に軸足を移したことになる。

システムの小型化進む

 もう1つの改良点は、装置の寸法を小型化したことだ。発電ユニット体積を従来型から46%小型化し、「世界最小である」(同社)。設置面積を2m2縮小したため、設置する屋外の位置の自由度が高まった。

 小型化を実現できた理由は2つある。1つは改質器の有無、もう1つは部品点数の少なさだ。従来のPEFC型では都市ガス(主にメタン、CH4)を改質して水素(H2)を得る。その際、CO(一酸化炭素)が発生する。COは燃料として利用できない上に、燃料電池の触媒の寿命を短くする。CO除去のための装置が必要だ。一方、SOFC型ではこのような装置は不要だ。さらにSOFC型はPEFC型と比べて燃料電池自体の構造が単純であり、部品点数を減らすことができる。

 貯湯ユニットは貯湯容量自体を減らしたことから、36%小型化でき、発電ユニットと合わせて40%小型化できた。

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