世界に勝つ日本の製造業、洋上風力発電の巻:小寺信良のEnergy Future(23)(5/5 ページ)
風力発電には、2050年時点における全世界の電力需要の2割以上を満たす潜在能力がある。当然設備の需要も大きく、伸びも著しい。しかし、小さなモジュールをつなげていけばいくらでも大規模化できる太陽光発電とは違った難しさがある。効率を求めて大型化しようとしても機械技術に限界があったからだ。ここに日本企業が勝ち残っていく余地があった。
油圧式は何が優れているのか
この方式のメリットは多い。まず油圧という技術は、日本をはじめ世界各国で既に長いこと使われている枯れた技術である。さらにその中でも日本製の油圧装置は精度や耐久性が高く、世界的にも競争力がある。
油圧ポンプ部は、小さな油圧シリンダの集合体だ。7MWクラスでは、約190台のシリンダが使われるという。これを、買収したArtemis Intelligent Powerのデジタル技術で制御する。具体的には、風の変動による回転ムラを瞬時に判断し、たくさんのポンプのうち何%を駆動させるかをリアルタイムで制御する(デジタル可変容量制御)。これにより、風量の変動を吸収して常に一定の油圧を得られる。
一定の油圧であれば、回転する発電機の回転数も一定になる。これはすなわち、発電機の後段に周波数を調整するための変換装置が不要になるということだ。さらに発電機も特殊なものではなく、火力などで使われる一般的なものが使える。
将来、10MW以上に大型化する場合でも、力を伝えるのが油なので、複数に分配することが容易だ。油圧ポンプ側はシリンダ数を増やすだけ、油圧モーターと発電機側はパラレル化して数を増やしていくだけである。
さらにメンテナンス性という点でもメリットが多い。油圧ポンプはもともと全部のシリンダが動作しないと動かないわけではないので、幾つか壊れてもそのまま機能し続ける。また交換するにしても小さなパーツの交換にとどまるので、作業が容易だ。
日本と英国で7MW機の実証試験へ
既に三菱重工業では、2006年から同社横浜製作所内で稼働してきた2.4MWのギア式のドライブトレインを、新開発の油圧式に装換して試験運転を開始した。元の出力よりも落ちて1.5MWとなるが、これは増速比率を7MWクラスの設計に合わせてあるからである。
2013年秋には、スコットランドのHunterstonテストサイトにおいて、7MW機の実証実験が始まる予定だ。翼とナセルはドイツ工場で製作し、基幹部品となる油圧部分は下関工場で製作、搬送するという。
さらに日本でも、2014年から実証実験が始まる。これは経済産業省主導のもと、現在福島県沖で進められている「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」に参画するもので、こちらも7MW機2基を供給する予定だ。世界でも珍しい、浮体式の巨大洋上発電となる。
日本ではまだ、洋上ウィンドファームそのものは海洋調査も含めて実証実験が始まったばかりで、太平洋側は銚子沖に、日本海側は北九州沖に観測タワーと実証機を設置するところまで来た。洋上風力発電については、FITの単価も規定されておらず、実際に事業者が参入するまでには、もう少し時間がかかるだろう。
その間に日本メーカーは、海外事業で巨大風車を建造するためのキャリアを積み、国内外投入への準備を進めることになる。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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