現実的に見ても大きな可能性を秘める「風力発電」:立ち上がる風力発電(1)(1/2 ページ)
再生可能エネルギーの主力として注目される風力発電。その可能性をシリーズで探っていく。第1回は、風力発電の導入ポテンシャルについて解説する。
世界で風力は原発を上回るエネルギーへ
自然エネルギー(再生可能エネルギー)が世界的にすごい勢いで伸びている。その中心的な存在が「風力」だ。
国際エネルギー機関(IEA)が発表した2011年版「Clean Energy Progress Report」によれば、世界の風力発電の設備容量は2010年で195GW、それが2020年には3倍の575GWまで増える見通しだ(1GWは100万kW、標準的な原発1基の出力容量に相当)。これに対して太陽光発電は成長率こそ風力を上回るが、2020年でも126GWにとどまる。また、原子力は福島の事故を勘案していない見通しでも、2010年の430GWが2020年に512GWと低成長だ。つまり、世界的には向こう10年で、風力が設備容量で原子力を上回る電源となるわけだ(実際の発電量は設備稼働率による。詳しくは後述)。
ところが、日本の風力発電は伸び悩んでいる。1990年代後半から風力発電は、電力会社の「長期電力購入メニュー」の対象となり導入が進んでいたが、2000年代中盤から停滞し始める。「2010年で3GW」という政策目標も達成できず、約2.5GWにとどまった。これは、約42GWで世界トップになった中国のわずか17分の1にすぎず、北海道と人口が同じで面積が北海道の半分しかないデンマーク(約3.8GW)より少ない。
全量買取制度導入で風力は活気づくか
日本で風力発電が伸び悩む理由は幾つかあるが、大局的にはRPS(Renewable Portfolio Standard:再生可能エネルギー利用割合基準)法に基づく自然エネルギー利用の目標値が低いことが挙げられる(自然エネルギーとは風力、太陽光、1000kW以下の水力、地熱、バイオマス)。
2003年に施行されたRPS法は、電力会社に対して販売量の一定割合、自然エネルギー由来の電気を利用することを義務付ける。自ら発電するか、他の事業者から電気(もしくはクレジット)を購入するのだ。ただ、その一定割合は年々高められているとはいえ、2010年度でわずか1.35%(124.3億kWh)でしかない。この小さな枠の中では既に、風力をはじめ自然エネルギー発電は供給過剰の状態にあり、伸びる余地がないのだ。
そこで、自然エネルギー利用が進む欧州の多くの国で採用される「全量固定価格買制度(FIT:Feed-in Tariff)」がRPS法に代わって2012年度から始まる予定である。電力会社に対して、自然エネルギーで発電した電気を一定期間、一定価格で“全量”買い取ることを義務付ける制度だ(住宅などでの小規模太陽光発電は従来通り“余剰”電力)。電力会社の買取原資は、全ての消費者が電気料金に上乗せされる賦課金(サーチャージ)を通じて負担する。
“日本版FIT”はくしくも、東日本大震災が起こった2011年3月11日に閣議決定、現在は国会に提出されている。大震災が今後のエネルギー政策にどのような影響を与え、それが日本版FITの実施要項にどう反映されるかは予断を許さないが、ともあれ日本版FITが施行されたなら、国内の風力発電が活気づく可能性は高いだろう。そこで風力発電の可能性をシリーズで探っていきたい。
話題を呼んだ導入ポテンシャル調査
シリーズ第1回は、風力発電の「導入ポテンシャル」について見ていきたい。導入ポテンシャルとは、一定の制約条件の下で利用可能なエネルギー資源量である。風力発電の制約条件とは、例えば陸上風力で平均風速5.5m/s以上、居住地から500m以上の距離、国立公園・自然公園第1種の除外などだ。
風力発電の導入ポテンシャルについては、環境省が2011年4月21日に発表した「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」に基づき、メディア各社が「風力発電の可能性 東北地方だけで原発40基分」などと取り上げたのを記憶している読者もいるだろう。同調査概要の風力発電部分を図3に示した。
同調査によれば、風力発電の導入ポテンシャルは、陸上・洋上で1900GW。このうち、経済的に成り立つシナリオ別導入ポテンシャルは、FIT単独で24〜140GW、「FIT+技術革新」で410GW、「FIT+補助金」で130〜590GW、「FIT+技術革新+補助金」で1500GWである。特に風が強く、人口密度の低い北海道、東北、九州の導入ポテンシャルは高い。例えば、東北はFIT単独シナリオで最大40GW。これが「東北だけで原発40基分」と言われるゆえんだ。
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