現実的に見ても大きな可能性を秘める「風力発電」:立ち上がる風力発電(1)(2/2 ページ)
再生可能エネルギーの主力として注目される風力発電。その可能性をシリーズで探っていく。第1回は、風力発電の導入ポテンシャルについて解説する。
そもそも電力会社10社の発電設備容量は合計で200GW強でしかない。風力発電がいかに大きな導入ポテンシャルを持つのかが分かる。ただ、これらの数字をそのまま受け止めるべきではない。導入ポテンシャル調査に参加した日本風力発電協会(JWPA)の企画局長、斉藤哲夫氏はこう話す。
「今回の調査はメッシュ幅を1kmから500mにしたり、自然公園第1種を除外するなど、従来より精度は高まり、条件も現実的になっている。ただ、発表された概要の数字は、各電力会社の設備容量や地域間連携設備能力の限界は考慮されていない。その点を踏まえて数字を見る必要がある」。
現実的に見れば陸上風力で原発何基分?
前述した導入ポテンシャルが高い3地域は、陸上風力・FIT単独シナリオだけで最大、北海道62.4GW、東北39.4GW、九州11.7GWとなる。これに対して電力会社の発電設備容量は、北海道7.4GW、東北16.6GW、九州20GWでしかない。つまり、北海道などは、今ある発電設備容量の8倍強もの導入ポテンシャルがある。これが全て開発されるとは到底考えられない。北海道で余った電力を本州に融通すると言っても、連携設備能力は0.6GWでしかない(今回の大震災で地域間連携設備能力の低さは問題視されている)。
斉藤氏は「各地域で電力会社の設備容量を上限とすれば、陸上風力・FIT単独シナリオの導入ポテンシャルは最大でも60GW程度。そのうち、実際に開発可能なのは、半分の30GW程度ではないか」と指摘する。
日本版FITの法案では、太陽光を除く電源の場合、買取価格は15〜20円/kW、買取期間は15〜20年の範囲で決めるとしている。「FITの制度設計によって風力発電事業の採算性は変わる。買い取りの価格・期間が厳しく設定されると、事業者は平均風速や初期コストなどでより条件の良い地区を選ばなければならず、導入ポテンシャルは減る」(斉藤氏)。ちなみにJWPAは「風力発電の拡大には20〜24円/kWh・20年が必要」と主張している(ちなみに現行のRPS法+補助金は16円/kWh・17年に相当するとしている)。
ともあれ、FIT単独シナリオで導入される陸上風力の設備容量を30GWとしてみる。後は稼働率をどう見るかだが、仮に導入ポテンシャル調査で使われる最も低い推計条件「平均風速6.5m/sで理論設備利用率27.5%」を適用すると、年間発電量は7万2300GWh/年となる。一方、原発の平均稼働率は67%(10年度実績)なので、標準的な原発1基の年間発電量は5900GWh/年。つまり、陸上風力の発電量はおよそ原発12基分となる。
メディアで言いはやされた「東北だけで原発40基分」と比べれば、全国で原発12基分は少ないように見えるが、それでも国内電力需要の8%をまかなえる計算になる。決して小さくないだろう。また、FITの制度設計、技術革新や補助金制度によっては、上乗せも期待できる。
洋上風力発電の導入ポテンシャルは「未知数」
さらに、以上は陸上風力発電に限った話である。導入ポテンシャルが陸上風力の5.7倍もあるとされる洋上風力発電はカウントしていない。洋上風力ならば、陸上風力に適さない東京電力管内でも導入が見込める。
斉藤氏は「欧州では導入が始まった洋上風力だが、国内ではまだ実証実験の段階。技術、ノウハウが蓄積されておらず、制度も未整備なので、現実的な導入ポテンシャルは未知なところがある」と話す。実際、導入ポテンシャル調査でも、FIT単独シナリオでは3GWと小さく、技術革新、補助金を伴って大きな導入ポテンシャルとなる。逆に言えば、技術革新の余地が大きく、政策次第とも言える。洋上風力については、シリーズの別の回で取り上げる。
風車は原始的なイメージもあるが、「中身は2万点の部品で構成され、日本が得意とする機械部品の集積」(斉藤氏)という。エネルギー産業、機械産業の面でも大いなる可能性を秘めた風力発電は注目に値するだろう(次回へ)。
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