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実用化迫る「直線翼縦軸風車」の可能性立ち上がる風力発電(2)(1/3 ページ)

「垂直軸(縦軸)型」という種類の発電用風車がある。その中でも注目されるのが「直線翼縦軸風車」だ。10余年にわたり同風車の研究を行う工学院大学の取り組みを通し、その可能性を探る。

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プロペラ型だけではない発電用風車

 多くの人は、風力発電の風車といえば、3枚羽根のプロペラ風車を思い浮かべるだろう。実は、発電用風車には2つのタイプがある。1つは主流の「水平軸」。プロペラ型のように風車の回転軸が風に対して水平なタイプだ。もう1つは当然、反対の「垂直軸(縦軸)」である。

「立ち上がる風力発電」連載一覧

第1回:現実的に見ても大きな可能性を秘める「風力発電」

第3回:使いにくい風力を使いやすく、東京電力など電力3社が風力発電拡大へ

第4回:制度に翻弄される国内の風力発電、FIT導入で大幅増は可能なのか



 縦軸型の中でもいくつかの種類があるが、最近になって注目されているのが「直線翼縦軸型」だ。図1に示した通り、板状の真っすぐな翼を回転軸に平行して取り付け、翼を持ち上げる風の“揚力”で回る風車である。

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図1 「直線翼縦軸型」風車

 なぜ、直線翼縦軸型が注目されているかといえば、理論的にプロペラ型に近い出力係数(風エネルギーから取り出せる電気エネルギーの割合)を持つからだ。具体的には、プロペラ型の0.45に対して0.4と言われる(風車の出力係数は「ベッツの法則」により最大理論値で0.59)。その他の縦軸型は出力係数が低いため、発電目的よりエコ活動を表すオブジェクト的に使われることが多い。

 さらに構造上、プロペラ型に比べて翼の周速が遅くて騒音が出にくい、風向きに関係なく回転する無指向性、構造がシンプルで低コスト、発電機を地上に設置できるため自由度が高い(プロペラ型はプロペラ後方の筒状部に格納)などの利点があるといわれる。

 では、そうした特徴を持つ直線翼縦軸型がさほど普及していないのはなぜか――。直線翼縦軸型では自己起動性が低い(回り始めに強い風力が必要)などの弱点も指摘されるが、大きな要因は別にある。

 プロペラ風車に適用される流体力学の「プロペラ理論」は、軍用機に使うため20世紀初頭には研究開発、実用化が進んでいたもの。それに対して直線翼縦軸型の場合、実用化に向けた理論形成は緒に就いたばかり。歴史が全然違うのだ。

 それでも直線翼縦軸型にかける研究者や企業がいる。工学院大学の学長(機械工学科教授)で流体工学を専門とする水野明哲氏もその1人だ。

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工学院大学 学長・機械工学科 教授 水野明哲氏

実験機を設置して10余年にわたり研究

 水野氏が指導する工学院大学・流体工学研究室(以下、水野研究室)では、2000年2月に同大学・八王子キャンパスの校舎屋上に自ら試作した直線翼縦軸風車の実験機を設置し、以来、10余年にわたって研究を重ねている。

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工学院大学・八王子キャンパスの校舎屋上にある直線翼縦軸風車の実験機

 水野氏はこの分野にかける思いをこう話す。「プロペラ型は技術が成熟し、風車メーカーも欧州勢が強い。どうせ風車の研究をするなら違うことをやろうと考えた。縦軸型の中では一時、“流線翼”を使うダリウス型で実用化に向けた動きもあったが、翼の製造コストがネックとなって立ち消えになってしまった。製造しやすい直線翼ならモノになると見込んだ」。

 水野研究室の直線翼縦軸風車は、手作りで低出力の実験機ということもあるが、大型プロペラ風車などと比べて実にシンプルな構造である。スパン2.4m・弦長30cmの直線翼が回転軸を中心に3枚配置され、回転直径は3.6m。現在のところ定格出力は約3kW(風速12m/秒時)、最大出力係数は0.3強。出力的には“家庭向け”風力発電システムといえる。

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大型プロペラ風車と比べてシンプルな構造

 また発電機も、コイルを多極に並べた板(2段)を磁石をはめ込んだ回転板(3段)で挟み込むエアーギャップ式発電機を自作したものだ。実験機ではその発電機を風車の回転軸でダイレクトに低速駆動させているのが特徴だ(最大回線数300回転/分、最大出力600W)。

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発電機はエアーギャップ式発電機を自作したもの

 水野氏は「プロペラ型のように軸の回転をギアで増速させ、高い発電出力を得る方法もあるが、ギアをかませれば騒音が出てエネルギーロスになる。また、トルクが高まるので風車を起動させるのにモーターやクラッチなどの補助機構を使わなければならない。あくまでも構造がシンプルな方式にこだわっている」と話す。

 自動運転機能としては、PCプログラムで制御する「ディスクブレーキ」と「負荷制御」の2つがある。ディスクブレーキは、許容回転数を超えて風車が破損する恐れがある場合、回転軸に仕込んだメカニカルなブレーキを自動的に作動させる。負荷制御とは、発電機に連なる自作の可変抵抗器で抵抗値を400Ω〜1kΩの範囲で変動させ、発電機の負荷トルクを調節して出力係数が高い状態を維持するものだ。これらの自動運転ロジックは、流体工学研究室の歴代の研究生が実測データに基づき研究してきた。

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