世界に勝つ日本の製造業、洋上風力発電の巻:小寺信良のEnergy Future(23)(4/5 ページ)
風力発電には、2050年時点における全世界の電力需要の2割以上を満たす潜在能力がある。当然設備の需要も大きく、伸びも著しい。しかし、小さなモジュールをつなげていけばいくらでも大規模化できる太陽光発電とは違った難しさがある。効率を求めて大型化しようとしても機械技術に限界があったからだ。ここに日本企業が勝ち残っていく余地があった。
油圧ドライブトレインの工夫とは
三菱重工業は、1980年から風力発電用風車の開発に着手し、これまで中小規模の風車を4000基以上、事業者に納品してきた。ギア方式やダイレクトドライブ方式も開発の経験がある。それでも大型化への課題解決のために、英国のベンチャーであったArtemis Intelligent Powerを2010年に買収し、油圧デジタル制御技術を入手した。今回の油圧ドライブトレインは、この技術がベースになっている。
油圧ドライブトレインは、油圧ポンプ部と油圧モーター部から成り立っている。まず全体の構造を見てみよう(図6)。
油圧ポンプ部には、中央に翼の軸と直結した波形のリングがはめ込まれている(図7)。リングの周囲には小さな油圧シリンダが円形をなすように配置されている。波形のリングが回転すると、リングの山と谷によってシリンダがピストン運動を繰り返し、油圧を高めていく。
図7 油圧ポンプ部の構造 図左が油圧ポンプを輪切りにしたところ。灰色の部分が翼の軸と直結したリングであり、リングの周囲(図左では上部のみ描いた)に油圧式シリンダが配置されている(図右)。DDP:Digital Displacement Pump。出典:三菱重工業
圧縮された高圧油は、パイプを伝って油圧モーターに流される。これも中心軸を囲むように小さいシリンダが配置され、その圧力でクランク状の軸を回転させる。軸の先には発電機があり、それを回すという仕組みだ(図8)。モーターとは言うものの、仕組みとしてはピストン運動を円運動に変換する、一般的なレシプロエンジンと同じだ。ガソリンエンジンの燃焼・爆発によるエネルギーの部分が、油圧の噴射になるだけである。
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