世界に勝つ日本の製造業、洋上風力発電の巻:小寺信良のEnergy Future(23)(3/5 ページ)
風力発電には、2050年時点における全世界の電力需要の2割以上を満たす潜在能力がある。当然設備の需要も大きく、伸びも著しい。しかし、小さなモジュールをつなげていけばいくらでも大規模化できる太陽光発電とは違った難しさがある。効率を求めて大型化しようとしても機械技術に限界があったからだ。ここに日本企業が勝ち残っていく余地があった。
どこに日本企業が勝ち残る余地があるのか
風力発電では、翼の巨大化とともに、中心部にある発電ユニットも大型化する必要がある。この発電ユニットには、「ドライブトレイン」と呼ばれる増速機構が必要になる。風車自体の回転数は1分間に10〜15回転だが、それを発電機に伝える過程で、1000〜1500回転にまで増速する。
三菱重工業は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から支援を受け、この超巨大風力発電市場で競争力のある、先進的なドライブトレインの開発に成功した。現在、6〜8MWクラスのドライブトレインの開発を表明しているのは4社で、上記大手2社の他、韓国Samsung Heavy Industries、そして日本の三菱重工業だ(表1)。
現在ドライブトレインの主力は、ギア式増速機だ。表1にあるようにVestas Wind SystemsとSamsung Heavy Industriesも大型ドライブトレインで採用している。これはあたかも時計の中身のようなもので、複数のギアを組み合わせ、複数の段階を経て増速する。ただ風力発電では、風車の回転数は風任せだ。ほとんどの場合、系統電力周波数と同じ周波数では発電できない*4)。
*4) 例えば60Hzの交流が欲しい場合、風車が1秒間に10回転すると決まっていれば、6の倍数に増速するギアがあればよい。しかし、9回転や11回転の場合は対応できなくなる。
従ってギア式増速機タイプのドライブトレイン内には、発生した交流(AC)をいったん直流(DC)に変換し、再度系統電力の周波数に合わせた交流に変換するインバータ設備が必要になる。
ギア式の大型化による難点は、ギアに掛かるトルクが強大なものになるため、強度の点で難易度が高くなることだ。加えて、複数の発電機を接続するために機構が複雑化して、信頼性が下がってしまうことも問題になる。
例えばギアの破損による交換ともなれば、数十mの塔に載せたままでは作業ができないため、いったん翼を外し、機械部品を納めたナセル全体を作業船で降ろし、陸上まで持ち帰って分解・交換する必要がある。その費用は、現在でもおよそ1億円掛かるという。
それだけの作業を進めるためには、波風のタイミングを見なければならず、場合によっては1カ月程度作業を見合わせなければならない場合もある。当然その間は発電できないので、事業者としては損失が拡大してしまう。
一方、表1の左端に掲載したSiemensが開発中のダイレクトドライブ方式は、機構そのものとしては以前から存在する。恐らく既存の方式を、大型向けに改良したものだとみられている。これは増速機構を使わず、発電機側に工夫を凝らして低速でも発電できるようにする方式だ。従って増速機のトラブルとは無縁というメリットがある。
その代わり発電機が大型化するのが弱点である。これを小型化するためには大量のレアアースが必要になることもあって、製造コストや原材料の入手性に難がある。
三菱重工業が開発したドライブトレインは、油圧ポンプと油圧モーターを組み合わせた新方式だ。これには他の方式にはないさまざまなメリットがある。
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