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「SiC」と「GaN」のデバイス開発競争の行方は?(地域編)知財で学ぶエレクトロニクス(3)(5/5 ページ)

次世代パワー半導体材料であるSiCとGaN。省エネルギーや小型化の切り札とされており、実用化に期待がかかる。現在、開発競争において、どの地域が進んでおり、どの企業に優位性があるのだろうか。それを解き明かすには特許の出願状況を確認、分析することが役立つ。

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SiCやGaNを利用したモジュールの特許出願

 Siパワー半導体の性能改善が限界を迎えたわけではありませんが、損失を現在の10分の1に低減することは極めて難しい状況にあります。一方で、SiCやGaNパワー半導体は、その優れた物性によって理想的には損失をSiパワー半導体の100分の1以下に低減することも可能であると試算されています。現在、パワー半導体の最大の課題はSiCやGaNパワー半導体の量産化であり、パワーエレクトロニクスの今後の課題はこれらを生かす新たなコンバータの開発です。そこで、次にコンバータに関する特許出願状況を見てみましょう(図3)。



図3 コンバータ/モジュール(SiC/GaN)の各国/地域における特許出願件数推移 (クリックで拡大

 図3からは、SiCコンバータだけでなく、GaNコンバータに対する技術開発意欲も高いことが分かります。モジュールについては、今のところSiCがGaNよりも先行しているように見えます。ここでも、WO特許/PCT経由の特許出願件数が目立つのは、電子技術分野特許における、PCT経由出願件数の多いことが反映されているためと考えられます。

 特許出願人(Applicant/Assignee)については、日本のセットメーカー(大阪ガス、関西電力、安川電機など)が積極的な外国出願を行っていることが分かり、GaNコンバータでは、関西電力の積極的な外国出願が目立ちます。

 SiCコンバータでは、韓国内での動き(韓国企業/研究機関と外国企業の特許出願)が既に始まっているように見えます。

 次回はさらに細かく、さまざまなSiC、GaNデバイスごとに企業の知財動向を紹介していきます。


特許出願情報の見方

 今回は出願年に注目する目的で、商用の特許データベースを試用した。特許出願年と特許件数の関係には注意を要する。今回の特許調査時期は2012年9月である。特許の出願から公開までが通常1.5年を要することから、2010年までに出願された特許に限り、ほぼ全件を確認できていると考えられる。

 米国公開特許は2000年11月29日以降に出願されたものが対象となるので、2000年の米国公開特許出願件数は少ないものとなる。日本の特許出願件数が他の国/地域よりも多いのは、日本企業がパワー半導体の技術開発に熱心であるだけでなく、日本企業の日本への特許出願件数が多いことにも依存していることに注意する必要がある。

企業の特許出願ルート

 企業の特許出願ルートには、WO特許/PCT経由、欧州特許、自国特許という3つがある。PCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)に基づくのがWO特許だ。WO特許は国際公開特許であるため、発行されるのは公開公報のみである。国際出願(PCT出願)を行った後に指定国の特許庁へ翻訳文を提出することで、各国での審査を経て国ごとの登録公報が発行され、特許の効力が得られる。

 欧州特許とは、欧州特許条約(European Patent Convention)に基づく特許出願である。欧州特許庁で審査され、特許付与された場合、指定国へ翻訳文を提出することで、その国で特許として効力が得られる。WO特許/PCT経由の制度では、手続きを統一的に行うのみであるが、欧州特許の制度では、実体的な審査まで統一的に行う点が異なる。

 自国特許とは、パリ条約に基づく自国特許庁への特許出願である。自国特許庁で審査され、特許付与された場合、自国で特許として効力が得られる。なお、自国特許の外国出願では、所定期限内に翻訳文を作成して優先権主張すれば、外国においても自国出願日が確保される。



筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

メールアドレス:sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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