検索
連載

グローバル企業として生き残るには――ボッシュ栃木工場に見るニッポンクオリティ小寺信良が見たモノづくりの現場(2)(5/5 ページ)

自動車の品質とコストを支えているのは誰か。多くの部分を下支えしているのが部品メーカーだ。自動車部品メーカーの1つ、ボッシュ。その栃木工場の工夫を、小寺信良氏の目を通して語っていただいた。品質向上への努力とはどのようなものなのかが分かるだろう。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

世界に発信するニッポンクオリティ

 栃木工場の2階では、吸気圧センサーを製造している。工場自慢の製造ラインだ。これまで他国で製造していたが、不良が多く、歩留まりに問題を抱えていた。そこで白羽の矢が立ったのが、栃木工場である。

 既に先行する工場を視察した結果、どうもコンデンサーを載せるときに使用する伝導性接着剤の塗布方法に問題があることを突き止めた。さらには抵抗溶接のプロセスにも、問題がありそうだった。

 日本で引き受けるからには、問題を解決して見せなければならない。これまでRobert Boschでは、世界中の工場で共通の製造機器を使い、同じ製造プロセスを徹底することで、均一な製品クオリティを担保してきた。

 前工場長は、製造プロセスに日本独自のアイデアを加えること、製造機器は日本製のものを使うことを条件に、製造に乗り出すことになった(図13)。


図13 伝導性接着剤の塗布方法を独自に改良

 その結果、稼働後わずか半年で世界一の低不良率をたたき出した。次の製造ラインも、栃木工場に新設された。以降、Robert Boschのグローバルミーティングを始め、本国や他国から責任者が出張した折には、栃木工場を見て帰るという流れができてきた(図14)。


図14 日本の技術の象徴である0系新幹線を模した製造ライン

日本の工場のよさを海外で再現することが目標に

 しかし現工場長の榎本氏は、これだけでは満足しない。

 「"日本でできる"のは当たり前。これはホームゲームで勝ったようなものですから。これからは、海外拠点で同じものができるか。アウエーで勝ってこそ、われわれの技術が本物だという証になります」。

 栃木工場は、他国拠点からの研修受け入れ、そして逆に技術指導のための技術者派遣といった、製造技術支援センターへと変ぼうしようとしている。

 日本のアイデンティティーとは何か。全くのゼロから新しい発想でモノを作るという点では他国に負ける部分も多いが、既にあるものをより良くするためのアイデア出しや改良、最適化、小型化、省力化、こういったところが強みだ。モノづくり、とくに製造という点では、これらのお家芸が世界で生き残るための強力な武器となる。あまりにも身近にありすぎて、武器になるとは気付かないが、世界に出てみてあらためて発見する部分である。

 一方現時点でボッシュ栃木工場では、低コストや大量生産といった部分で他国と勝負することはできないという。工場が大きくならないということは、地元雇用も増えないということである。定年退職に伴う世代交代や人の入れ替わりなどは発生しているが、新規に大量の雇用が発生するわけではない。

 この悩みは、日本のほとんどの工場が直面している。生き残りの次の課題は、実はそのあたりになってくるだろう。


筆者紹介

photo
photo

小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る