「カレラカップ」レースカーで研究開発を推進、フリースケールが新たな取り組み:車載半導体
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、同社がメインスポンサーを務める「OGT! Racing」のレースカーを活用した研究開発に取り組んでいる。「ポルシェ カレラカップ ジャパン 2012」では、レース中のドライバーのバイオメトリクス計測や、予防安全技術についての研究開発を行った。
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン(以下、フリースケール)は2012年11月20日、東京都内で会見を開き、同社がメインスポンサーを務める「OGT! Racing」のレースカーを用いた、レース中のドライバーのバイオメトリクス計測や予防安全技術に関する研究開発の取り組みについて説明した(関連記事)。
OGT! Racingは、Porsche(ポルシェ)のスポーツカー「911カレラ」をベースにしたレースカーを用いるワンメイクのカーレース「ポルシェ カレラカップ ジャパン 2012」に参戦。2012年3月に開催された第1戦で1位、第2戦で3位に入るなど健闘した。ドライバーを務めるのは、イゴール・スシュコ氏である。
フリースケール社長のデイビッド・M・ユーゼ氏は、「イノベーションによってビジネスを生み出している当社にとって、当社のICのユーザーや一緒に使われるハードウェアのベンダーとともに技術開発を進めることは極めて重要だ。今回、OGT! Racingのスポンサーとなることで、振動や温度をはじめ過酷な環境になるレースカーの中で、さまざまな企業と共同して先進技術を開発できる場が得られた。また、企業もモータースポーツも結果を出すために一丸となって勝負することに変わりはない。OGT! Racingでは、当社のスローガンであり、チーム名にも入っている『OGT(One Great Team)!』を実践できていたと思う。もちろん、フリースケールのブランド力向上にも大きく貢献した」とモータースポーツに参加した手応えを語る。
バイオメトリクスを計測
OGT! Racingのレースカーで行った技術開発の事例は2つある。1つは、東京大学大学院工学系研究科の淺間研究室、エー・アンド・ディ、ジースポートの3者が行った、レース中のドライバーのバイオメトリクス計測に関する共同研究である。
このバイオメトリクス計測は、ドライバーに装着した筋電センサーと発汗センサーによるストレス計測と、エー・アンド・ディとジースポートが開発した新開発のモーションキャプチャシステムによるドライバーの動きの計測に分かれている。
淺間研究室では、筋電センサーや発汗センサーなどで計測した生理指標から、ストレスを定量化する研究を進めている。例えば、「ストレスを感じると、あごの咀嚼(そしゃく)筋の動きに変化が出る傾向がある」(教授の淺間一氏)という。これらの研究結果を基に、予選走行時に計測した咀嚼筋の筋電図から、直線コースでの加速やカーブのときに、高い筋電位が計測された。淺間氏は、「そのときにストレスを受けていると考えられる」という見解を示した。今後は、発汗、心拍数、レースカーにかかる加速度などの情報を考慮して詳しい分析を進める予定だ。
淺間研究室が詳しい分析を行う際に用いる情報の1つとなるのが、新開発のモーションキャプチャシステム「DIMOTOR」によるドライバーの動きの計測である。
このDIMOTORには、エー・アンド・ディが開発した高精度のMEMSベースのジャイロセンサーと加速度センサーを組み込んだ慣性計測ユニットが用いられている。ジースポートは、この慣性計測ユニット17個と、フリースケールの32ビットマイコン「Kinetis K60」を搭載する無線通信ユニットを組み合わせてシステム化した。ジースポート代表取締役の黒田篤氏は、「赤外線カメラを使って身体に付けたマーカー位置を計測する従来型のモーションキャプチャシステムは屋外では利用できない。一方、高精度センサーを身体に装着するDIMOTORは、屋外だけでなく、車両内のような狭いところでも使用できる」と説明する。
既に、OGT! Racingのドライバーであるスシュコ氏に、発汗センサー、筋電センサー、DIMOTORを装着してもらい、レース中に全てのセンサー情報を同期して計測した結果を得ている。ただし、計測データの解析については、さらに研究を進める必要があるという。
淺間研究室、エー・アンド・ディ、ジースポートの3者は、共同研究の成果を、電気自動車のように従来とは異なる運転環境を持つ車両の設計や、レースドライバーの労働衛生管理、先進運転支援システムの開発などに応用したい考えだ。
車載イーサネットを活用したカメラシステムも搭載
もう1つの技術開発の事例は、フリースケールが関連ICを提供している予防安全技術である。
OGT! Racingのレースカーには、車両の前方、両側方、後方の4面に車載カメラが設置されている。これら4個の車載カメラで撮影した映像データを同期して取得するシステムを搭載しているのだ。
このシステムでは、撮影した映像データを各車載カメラが内蔵するフリースケールの車載マイコン「MPC5604E」でモーションJPEGにエンコードし、車載イーサネットを介してセンターユニットに送信する。センターユニットには、同社の車載情報機器向けプロセッサ「i.MX 6Quad」が搭載されており、モーションJPEGデータをリアルタイムでデコードしている。
この4個の車載カメラと車載イーサネットを使ったシステムは、駐車時に用いるサラウンドビューシステムとして2013年に量産車に採用される見込みである(関連記事)。ただし、今回のレースカーに搭載したシステムでは、リアルタイムでサラウンドビューへの映像合成を行っていない。
フリースケールは、今後もカーレース活動を継続する方針である。ユーゼ氏は、レースカーに搭載する予防安全技術について、「2013年は、リアルタイムでサラウンドビューを出力できるようにしたい。77GHz帯のミリ波レーダー用の送受信ICとマイコンを用いたシステムも、何らかの形で搭載したいと考えている」と述べている。
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