ソニーの“プロ機”が日本人にしか作れない理由:小寺信良が見たモノづくりの現場(1)(2/3 ページ)
日本のモノづくりが失墜しているって? とんでもない。日本でなくてはできない価値のあるモノづくりの現場が、静岡にある。
コンシューマとは全然違うプロ機の世界
プロ機生産の特徴は、多品種・超変量であるということだ。出荷が少ない製品では月に1度しか生産しないものもあるし、20年以上前の製品の部品を保守用として製造することもある。このため、一日のうちに頻繁にライン切り替えが行なわれる。
製造は、基板への部品実装はライン製造だが、組み上げはセル生産方式となっており、人を使った流れ作業はほとんどない。
基板実装はどの工場でもたいてい同じだと思うが、機器の小型化に伴って、電子部品がかなり小さくなっている。最小のものは「0402サイズ」と呼ばれるものだ。これは部品サイズが0.4mm×0.2mmという意味である。主流は「1005」サイズ、つまり1mm×0.5mmだ。これを数百〜千個以上も実装していく。この数と小ささでは、人間がチェックしていくのは到底無理なので、画像検査装置を使う。
現場の創意工夫が生きる
画像検査装置は、マスターとなる良品と、製造された実装基板を写真で比較し、その差分を見つけるというものである。部品の向きや角度のズレといったレベルでの比較が可能で、異常があればラインを止めて調整を行う。検査写真の撮影には、同社のデジタル一眼レフ、αシリーズが活躍している。
部品によっては、画像検査装置で確認できない位置に端子が付いているものもある。例えばプロセッサなどは、底面に複数の端子があるので、基板の上から写真を撮影する画像検査装置では端子の状態を管理できない。こういった場合には、X線検査装置を使って確認する。
製造ラインは最長で30mほどあるが、頻繁にライン切り替えが行われるために、人の行き来も多い。30mをぐるっと迂回してライン間を移動するのは無駄なので、ラインの途中でコンベアを下に下げる、上に跳ね上げるなどの工夫がされており、ラインの途中でも人が移動できるように工夫されている。これらは製造担当者の意見を反映して、独自に開発したものだという。
人間の動きが生産性を支える
多品種製造の中においては、1人が1つの仕事しかできないのでは効率が上がらない。従ってライン担当者は、どのライン切り替えにも対応できる。製造進捗(しんちょく)はラインの端に掲示されているモニターで表示されており、遅れているラインでは切り替え時に周りの人がヘルプに入ることで、切り替え時間を短縮している。
また各ラインのモニターには、あと何分で切り替えといった情報も表示される。これを見ながら、他のラインを担当している各自がどのタイミングでどう動けばいいかを考えながら、オペレーションしている。
新製品に用いる基板に関しては、3ロットまでX線検査を含めた全数検査を行っている。それ以降は、ロットごとに必ず1枚抽出し、検査するという。
基板実装でも、マシンで装着できない部品は手作業で行う。特に電源基板は、コイルやシャーシなどのパーツが大きくて重いことから、機械での実装が難しく、手作業である。また電源部は、トラブルが起きると火傷や火災などの大きな事故につながる可能性があるため、品質管理ではもっとも厳しくチェックされる部分だ。
小ロット生産のための「Eマウント」
この工程では、「Eマウント」と呼ばれる生産補助システムが使われている。かつて工員が手作業で組み立てを行っていた製造ラインでは、1人が1つのパーツを、記憶を頼りに載せていく流れ作業であった。しかし、これは小ロット生産には向いていない。
Eマウントは、製造セルの上部にプロジェクタを設置し、上から手元の基板に向かって、製造指示を投射するというシステムだ。基板上のこの位置に、この向きに載せる、といった指示が投射され、作業者はそれに従って部品を実装していく。もちろん取り付け部品もロック付きのサプライヤに収められており、1工程ごとにロックが外れて部品が1つずつ取り出せる仕組みだ。従って間違った部品が取り付けられることがない。
実装後は各部品の表示を全部確認する。部品の印刷は肉眼で確認しづらいため、Webカメラを使ってモニター上で確認している。文字が確認しやすいように、コントラストが高めに調整されている。
セル生産でミスを排除する「E-Assy」
基板類の製造が完了したら、次はアセンブルである。少量生産であるがゆえにセル生産だが、1カ月間で1つのセルが製造する製品は、およそ100種類にも上るという。中には1カ月に1回しか生産しない、極小ロット製品もあるため、人の熟練だけではカバーし切れない。
ここで導入されているのが、「E-Assy」というシステムである。これはデータ化された工程表をベースに、1ステップずつ製造支援を行うものだ。
例えばネジ止めでは、1つの製品の中で異なる径のものを異なるトルクで締める必要がある。
従来であれば、異なるトルクのものはそれぞれ個別の電動ドライバを使用していたが、工具を減らすため、同じピットでトルクだけ違うものは、システム側でドライバのトルクを管理する。
1工程に付き、使用するドライバは必ず1つに制限されており、使用するドライバ以外は手に取っても動かないようになっている。電源供給のために有線接続されているドライバだけでなく、バッテリー駆動のドライバも特殊な装置を取り付け、ワイヤレスで電源管理を行っている。使用すべきバッテリーは、ドライバのグリップ部に付けられたリングが光ることで、作業者に知らせる。
1つの工程が完了したら、作業者は工程表のOKボタンを押して、次のステップに進むといった段取りだ。OKボタンの押下はフットスイッチで行っている。
実際にしばらく製造を見学したが、手際の良さによるスピードよりも、確実性のほうを重視しているように見えた。
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