日本版FITは着陸できるか? シャープのエネルギー事業戦略で見る新エネルギー産業のこれから:小寺信良のEnergy Future(17)(3/3 ページ)
大きく動く日本のエネルギー政策。FIT発動を目前に、発電事業に乗り出すシャープの動向は太陽電池メーカーの将来を照らすか。
生き残りを賭けた太陽電池製造メーカーの戦い
日本を含め、ドイツ、アメリカなどの太陽電池製造メーカーは、製造装置そのものの開発も自社で行うのが常識だった。しかし、単結晶・多結晶タイプで変換効率が15%程度のものであれば、技術が成熟したことでターンキーシステムが可能になった。
つまり、ドイツのメーカーから製造機器を買ってきて工場を作り、そこに材料を放り込めば、太陽電池が次々と生産できる。中国メーカーのほとんどがこの方式で製造している。
製造機器も年々レベルが上がっており、新しい機械を入れた工場はそれだけ売り上げが確保できる。太陽電池製造は、単純な設備投資産業となったわけである。ただ、太陽電池業界は、裾野が広い。上流はシリコンを取り出すための珪石の採掘・精製から、下流はメガソーラーの設計・施工・運用まである。
中国メーカーの参入をきっかけにIPPにかじを切ったシャープ
中国メーカーがパネル製造に踏み込んできたことで、既存各メーカーは戦略を変えざるを得なくなってきた。多くの太陽電池メーカーは、さらに高い変換効率へ逃げる戦略をとっている。一方、シャープは、メガソーラー施設の設計から施工、電力線への接続、さらにはそれらを自社で運用して、独立発電事業者(IPP)になる道に踏み出した。
シャープが採用したこのスタイルは、日本では久しく成り立なかったが、2011年に成立した特別措置法により、日本でも2012年7月からFITがスタートする*。シャープの場合、既にイタリアで現地企業と合弁で発電所の運用実績がある。またメガソーラー建設に関しては、タイで2010年より73MWとなる大規模施設の建設から保守・メンテナンス業務までを受託している。
日本版FITは同じ轍を踏まないか?
従来、発電所が作れる日本企業としては、東芝や日立などがあったが、それらの企業は電力会社に発電所を納品する立場だった。しかし、これからの再生可能エネルギー関連の発電所は、メーカーが作って経営していく形が主流になる可能性がある。しかも、地産地消型であるため、地元自治体や地元企業との連携は必須だ。町おこし、村おこし的な要素も強い。
ただFITは、劇薬だ。
買い取り価格だけでなく、買い取り上限なども含めてうまく設計していかないと、長期的な価格を保証するだけに、先のスペインのケースのように既存電力会社をつぶしてしまいかねない。
日本のFITは、ドイツのように1990年代から2030年に目標を置くような長期的計画に則しての話ではない。2011年に原子力発電所の事故が発生するまでは、原子力発電に全面依存した大規模集中発電という、20世紀のスタイルを単に延長しただけの計画しか持っていなかった日本は、スペインを笑えない。
2010年に発表された「エネルギー基本計画」では、再生可能エネルギーの導入拡大を叫びつつも、原子力発電を国の基幹エネルギーと位置付け、推進に関しての細かい計画が記されている。
これを全くの白紙に撤回して、新たに将来のエネルギー政策を短期間で組み立て直さなければならないわけだから、スペインよりもさらに条件は悪いことになる。
さまざまなことが秩序立てて行われればいいが、率直にいって状況はかなり悪い。“メガソーラーコーディネーター”的な人物が、他人の土地に勝手にメガソーラー施設をぶっ建てて儲かるかどうか、といった話を持ち込むケースが増えていると聞く。あたかも1980年代の太陽光発電バブル期と似たような状況のように思える。
この困難な時代の中、国内有数の太陽電池製造メーカーであるシャープが、これからのエネルギー事業をどうかじ取りしていくのか。刮目してその動向を見ておく必要がある。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.