思い描いた「コンセントの未来」、ソニー発の強力な技術を使いこなせるか:小寺信良のEnergy Future(16)(4/4 ページ)
ソニーが開発した「認証型コンセント」。前回はコンセントが家電を認識する仕組みを紹介した。今回は認証型コンセントを使うと何ができるのか、アプリケーション側から考えてみたい。他のさまざまな革新技術同様、大きな可能性を秘めると同時に、落とし穴もありそうだ。
電力源を選択できるようになる
逆に、機器に追従してコンセント側から電力供給ラインを切り替えるということもできるだろう。今はまだわれわれの家庭には電力会社からの配電網しかつながっていないが、将来はこれらの大手電力会社からのものと、再生可能エネルギー由来の電力とが混ざって引き込まれる可能性がある。
このとき、例えばノートPCだけは多少高くても普及のために再生可能エネルギーを使うのだ、と決心したとする。これが認証型コンセントならば、家庭内のどのコンセントに挿しても、再生可能エネルギー由来の電力に切り替えて供給することができる(図5)。
図5 電力源を選択できるコンセント 実際に送配電線が2種類なくても、特定規模電気事業者(PPS)から電力を購入する場合のように「仮想的に」利用することもできるようになるだろう(関連記事:「我が社の太陽光発電所を作るには」。出典:ソニー
電力源を、機器に応じて積極的に選べるようになるわけだ。これがあらかじめコンセントごとに分けられているとしたら、持ち運んで使う機器では利用しにくくなるだろう。これが解決するわけだ。
電力消費の測定とプライバシー
機能3「どの機器が積算でどれぐらい電気を使ったかが分かる」機能に入ろう。具体的には機器ごとの積算使用量や、コンセントへの接続時間、実際に通電した使用時間が分かる。節電に利用したり、あるいは機器のランニング時間を計るアワーメーターのように使えたりする可能性がある。さらに組み込みバッテリーの寿命を知らせる、異常な電力消費を検出して故障を検知する、といったこともできるだろう。
だが、データの取り扱いに関しては、いまから神経質になってもなりすぎることはない。というのも社員証の例で分かるように、スマートフォンなどのモバイル機器は、認証型コンセントの実用化に伴って、次第に個人認証機としての意味合いを持つことになるだろう。つまり充電履歴を追っていくと、本人がどこに何時間居たかという、行動履歴が取れることになる。
カードでの認証は一瞬なので通過時刻しか分からないが、通過したという履歴の漏えいだけでも問題がある。一方充電は、一定時間を要するため、ある意味、そこに居た時間まで分かる。そんなものは、スマートフォンだけ預けて離れていたという言い訳も通用すると思うかもしれないが、それは場所によりけりである。例えばラブホテルにスマートフォンだけ充電しに入室したという言い訳が成立するだろうか。
ソニーではこれから、この技術を利用したい企業を集めて規格やガイドラインの策定を進めていくとしている。技術の方向としては、行動履歴を含め機器を管理することによって、ユーザーがより便利になることを目指している。
しかし、クレジットカードやインターネットが生まれたときも、技術者はユーザーが便利になるようにという理想をもって開発したはずだ。しかし実際にはそれで破産など人生が破滅するようなことも起こっている。技術に善悪はないが、運用には人の意志が入る。
認証型コンセントは、人の行動も含めて細かく利用状況が分かる技術であるが故に、それを全部使うのかどうか、利用履歴を含む詳細データが個人と結びついて漏えいするリスクを考えても、それでも使う価値のある利用範囲内に留めておけるかは、これから議論すべき問題であろう。
リーダー/ライターで認証した先には、必ず何らかの管理システムが動き、APIを通じて何らかのサービス事業者のアプリケーションサーバに接続される(図6)。「これはこれは面白いビッグデータですなぁ」とマーケッターが揉み手しながらすり寄ってくるようなことでは、ユーザーとしては困るのだ。
またこのようなコンセントの普及は、同時に課金システム自体の拡大をも意味している。そうなれば、セキュリティを破ろうとする悪人も現われるだろう。そうなったときに、一斉にセキュリティ方式をアップデートできる方法があるのか。
これまでFeliCaチップは全世界で5億個ほど出荷されているが、まだセキュリティが破られたことはない。実は2011年に、暗号化方式を追加した次世代のICチップが開発されており、2012年春から出荷が始まる(発表資料)。
暗号化方式の追加なので、従来チップと上位互換になるが、どこかの段階でチップそのものを交換しなくてはいけない。読まれる側は製品買い換えによって数年で変わっていくだろうが、リーダー/ライター側は交換工事が必要になる。
破られていないからまだよいが、もし仮に破られたとしたら、利用者が増えるほど、交換工事の手間は膨大なものとなる。せっかく通信でやるなら、ある程度すぐに穴がふさげる程度のソフトウェアアップデートの仕組みも入れなければならないだろう。
技術はできた。その先に幸福な未来が待っているかもしれない。だがそれを保証する安全性をどのように持たせるかを、企業だけが考えていけばよいという時代は終わった。この技術は電力線という基本インフラに組み込むことになるため、仕組みには一般の消費者でも分かる高い透明性が求められる。そのガイドライン策定をどのようにドライブしていけばよいのか、まずはそこが当面の課題だといえるだろう。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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