設計者が解析するなら樹脂流動ではなく熱や電波:甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(6)(3/3 ページ)
金型設計者に樹脂流動解析は有効だけど、それ以外の部品・商品設計者に有効なのは熱伝導や電波障害の解析だ。
CAE技術者が不在?
これは筆者のクライアント企業さま(OA機器メーカー)での話です。
CAE技術者の中に、機械的な応力計算だけを自分の仕事だと思っている人がいました。今や、CAEとは、応力計算はもちろん、樹脂流動解析、騒音解析、熱伝導解析、電波障害(EMI:Electro Magnetic Interference、EMS:Electro Magnetic Susceptibility)などさまざまな解析を設計段階で実施する技術的手段を意味します。
筆者は、この企業のCAE部門の技術教育を担っています。
この企業に、CAE技術者は不在です。その代わり、CAEを使ったコンサルタントたちが存在します。その半数が若き女性技術者です。商業高校や工業高校出身者もいますし、大学卒の人も出身学部が文学部、教育学部、応用化学部、情報工学部とさまざまです。
その企業の設計たちは、筆者のような“イカツイ顔のオジン”より、彼女たちにCAEを用いたコンサルテーションを依頼するのです。
時代は変わりました。このように、若き女性技術者を中心にしてCAEが活性化しています。
そうか! だからエリカちゃんも、CAEについて急に必死で勉強しだしたんだな。僕のことなんか、仕事以外で相手している時間はないってわけか〜。でもCAEなら僕の方が上手だ! 絶対に負けないぞ!
そうだ! その意気だ、良君! 「頑張れ東北! 頑張れ日本!」じゃねぇんだ。頑張るのはオメェだよ。それの努力はいずれは東北にも伝わる。「頑張れ、良君!」
甚さんの考える「設計者の3次元CAD」
先のセミナーの話題が出たとき、毎度、偏屈(へんくつ)な意見をする甚さんは、実は、このようなことも話していました。
良君! オメェはCAE技術者として3次元CADと接しているがよぅ、3次元CADの基本は、“解析ツール”ではなく、“設計ツール”よぉ。
そりゃそうですね。
筆者は、各種業界のクライアントさまからよく聞かれます。「使いやすい3次元CADはどれがいいでしょうか?」と……。
そのようなとき、以下のように回答しています。
「使いやすいか否か、コストパフォーマンスに優れているか否かはよく分かりませんが、とにかく以下の機能に優れたハード・ソフトウェアを選択してください」
- 丸、三角、四角などの基本図形が容易に描ける
- “消しゴム”機能がある(「すぐに消せて、画面にその跡が残ること」の比喩)
- 単品だけでなく、アセンブリの断面が容易に切れる
- スケルトン(透視図)が容易に表示できる
最近知ったのですが、ある3次元CADは、断面表示とスケルトン(透過)表示が少々苦手なようです。
3次元CADも、設計者の道具。いわば職人の道具ですね。
筆者は度々、設計という職業を料理に、設計者を料理人にたとえます。料理人などの職人はそれぞれの道具にこだわります。「まな板」「包丁」「鍋」「釜」です。大工なら「ノコギリ」「カンナ」「金づち」「ノミ」「キリ」などでしょう。そして、そのこだわりの道具を製作する人も職人です。その職人たちは、道具を使う職人たちを徹底的にリサーチします。そこに基づき、道具の材料、質量、重心位置、柄の太さなどを作り込んでいくものです。
3次元CADも、徹底的に設計者をリサーチして、その機能を作り込んでいただきたいと思うのですが……。
何か技術的な理由があるのかもしれねぇがよぉ、オレサマから見れば、とにかくこれは、ちょいと困った3次元CADだよぅ。ベンダーは市場調査をちゃんとやってんのかぃ。
甚さんの意見も理解できますけど、CADのベンダーさんだってちゃんと市場調査していますって。とにかく、ツールの選択はユーザーに任せておけばいいでしょう?
オメェ、さっきオレサマがちょいとほめたからか、なんか偉そうじゃねぇかぃ。あん? まあ良君の言うことも確かだけどな。
次回もお楽しみに。(次回に続く)
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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