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今後どうなる!? 日本の有機EL技術〔後編〕どうなるコダック? ソニー vs. シャープの開発競争は?知財コンサルタントが教える業界事情(8)(2/3 ページ)

中編で見た韓国企業の有機ELディスプレイ関連の知財戦略のしたたかさに対して、欧米・日本企業はどんな作戦を立てているのだろうか。知財データベースから業界事情を推察する。

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欧米日の各企業の事業開発動向

 コダックは2001年から三洋電機と有機ELディスプレイ合弁事業を開始しましたが、2006年に三洋電機が合弁事業から撤退したため、その直後の3月からLGフィリップスと有機ELの共同開発を開始しています(中編参照)。しかしながら、液晶ディスプレイの製造を手掛けるLGフィリップスはフィリップスの出資株式比率の低下に伴い、LGディスプレイと1999年に名称変更され、フィリップスは2009年に合弁事業そのものから撤退しています。

 結局、フィリップスは家電・ヘルスケアと並ぶ、3大事業の1つである照明事業の将来展開として開発を進め、照明専業のオスラムも有機EL照明を手掛けています。

 欧州で現在進行しているプロジェクトとしては、BMBF(ドイツ文部科学省)が主導する「OLED 2015」の第2フェーズの「TOPAS 2012」があります。ここでの各企業の開発担当分野は、図2の通りです*。

図2 TOPAS 2012
図2 TOPAS 2012における各企業の開発担当分野

*プロジェクト詳細はリンクの報道を参照。


 コスト削減が可能な塗布法での有機EL照明事業参入を狙い、コニカミノルタは2007年3月にGEと提携を結びました。しかし、2011年3月にGEとの契約が切れると、直後の2011年4月には有機EL照明の早期事業化を狙い、蒸着法を採用するフィリップスと組んで有機EL照明パネルの量産開始に合意しました(「Euroluce 2011」に出展)。Euroluce 2011に展示された有機EL照明の発光材料が全てリン光型発光材料であったことから、コニカミノルタの青色発光材料がフィリップスにとって魅力あるリン光型発光材料技術(知的財産とノウハウを含む)だったと推測されます。それと同時に、この出来事から、コニカミノルタにとって有機EL照明事業開発(自社ブランドとビジネスモデルの構築を含む)が、どれほど厳しいものであるかを示唆していると筆者は捉えています。

 一方、有機EL事業開発の先駆者であるコダックも、2009年5月には米国エネルギー省から2年間に170万ドルの援助を得て、国際規格Energy Starの仕様を満たす有機EL照明の開発を進めていますので*、2011年以降の成果報告が注目されます。しかし、ここに来てコダックの経営状況悪化が伝えられることから**、今後の関心は「誰が、どんな技術の知的財産を目当てに」コダックへの出資や買収に動くかに関心が集まるものと推測されます。

*コダックのプレスリリース参照。
**「米コダック:破産申請含む選択肢を検討、特許売却が難航−関係者」(2011年9月30日ブルームバーグ)などの報道がある。


 このような状況を踏まえると、2010年12月にコダックが自社の有機EL知的財産の利用権を確保しつつ、有機EL事業と知的財産権をLGに譲渡したこと*も納得がいくものとなります。この機会に、出光興産はLGの知財権管理会社に33.73%出資し、材料供給メーカーとしての存在感を顕示していますが、ここではLGの知的財産に対する戦略性の強さを感じさせられます。

 コダック追撃から有機EL材料の開発を始めた日本の化学系企業は、韓国企業と合弁で有機ELディスプレイ事業開発に突き進んだ日本の電機メーカーに有機EL材料を提供していました。そして、日本の電機メーカーが有機EL事業開発から撤退を始めた、2000年代の半ばあたりから、有機EL材料を提供できる日本の化学系企業は有機EL照明の事業開発に取り組み始めたと推測されます。

*中編参照。同社は、自社の事業開発に関連する知財を確保しつつ、一部をLGに譲渡またはライセンス供与しているとみられます。


グラフで見る各国の動向

増加するデバイス関連特許

 図3の全世界における電場発光光源と有機発光デバイスの特許件数推移(縦棒グラフ)をご覧いただきたいと思います(推移は発行年ベースで整理)*。

図3-1図3-2 図3 全世界における電場発光光源と有機発光デバイスの特許出願状況

*図3で、電場発光光源はH03B33(電場発光光源)を含む特許であり、LEDや有機ELのような半導体発光ダイオードが対象になります。それに対し、有機発光デバイスはH01L51/50(有機発光素子)、H01L51/52(有機発光装置)、H01L51/54(有機発光材料)、H01L51/56(有機発光素子および装置の製造)のいずれか含む特許であり、有機ELが対象になります。


 特許の出願から公開(公報発行)までが1.5年であることを踏まえると、図3から次のことが分かります。

 2003年ごろ(発行年では2005年)から、電場発光光源の特許は減少傾向であるのに対し、有機発光デバイス特許件数は横ばい傾向にあります。しかも、有機発光デバイス特許は発行年での2010年が増加傾向にあり、2011年9月までが横ばい傾向であることから、出願年ベースで見直すと、世界的な特許件数は増加傾向にあると推察されます。

各国の動向

 図4の各国の有機発光デバイスの特許件数推移(縦棒グラフ)と、図5の日本の有機ELディスプレイ・有機EL照明の特許件数推移(縦棒グラフ)を、それぞれご覧いただきたいと思います(推移は発行年ベースで整理)*。

図4-1
図4-2
図4 日米欧・中国・韓国における有機発光デバイス特許出願状況
図5
図5 日本の有機ELディスプレイ・有機EL照明の特許出願状況 発光層(左上)、製造方法(右上)、応用・用途(下)で分類した

*無料で利用できる特許データベースの機能には限りがあります。そこで、近似としてIPC(国際特許分類)の有機発光デバイス関連の特許分類「H01L51/50+ H01L51/51+ H01L51/52+ H01L51/54+H51//56」を使って、各国の特許件数推移を調べたものが図4です。


 図4から、特許出願件数が多いといわれている日本だけでなく、大きな市場である米国、有機ELディスプレイ事業を展開する韓国の出願件数が多く、将来市場と見なされる中国への出願件数が多いことも分かります。

 特許が公開されるまでの期間は通常1.5年であり、2011年は9月までしか経過していないので、2010年と2011年の件数は少なめになります。それにもかかわらず、図4の2010年と2011年が横ばい(あるいは落ち込みが少ない)ことに注目してください。これは企業の有機発光デバイス分野への技術開発意欲と事業化意欲を反映しています。このことは既に述べた通りです。

日本国内の動向

 日本特許にはFタームという、より詳細な特許分類があります*。そこで、図5(日本の有機ELディスプレイ・有機EL照明の特許出願状況)ではFタームを使って、日本出願特許の動向を見てきました。図5では次の区分で整理しています*。日本特許には日本企業の出願が圧倒的に多いことから、日本特許の出願傾向は日本企業の出願動向を反映したものと理解してよいでしょう。

  1. デバイス(ディスプレイ/照明)
  2. 材料(低分子/金属錯体/高分子)
  3. 製造方法(蒸着法/塗布法)

*Fタームについては連載『自社事業を強化する! 知財マネジメントの基礎知識』第4回「自分でできる知的財産権調査! カンタン3段ステップ検索方法をマスターする」でも紹介しています。


 まず、有機EL発光層材料としては、低分子型が高分子型の約2倍の特許件数で推移し、金属錯体型は低分子型の半分くらいの特許件数で推移しています。ここから、有機EL発光材料としては低分子型が主流であることが分かります。

 次に、製造方法については、発行年で2006年ですから、実際の時期としては2004年ごろまでは、蒸着法と塗布法の件数は毎年ほぼ同じくらいの特許件数であり、2004年ごろを境に塗布法の特許件数が増加傾向であるのに対し、蒸着法の特許件数は減少傾向にあります。これは製造コストの有利な塗布法に対する技術開発意欲が高まっていることの表れと推測されます。


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