どうなる!? 日本の有機EL技術〔中編〕有機ELディスプレイにおけるサムスン、LGの知財動向を読む:知財コンサルタントが教える業界事情(7)(1/3 ページ)
注目の集まる有機EL市場に対して、サムスン、LGの韓国陣営はどのような知財戦略をとってきたかを検証。今後の動向を占う。
はじめに
前編では、有機EL技術を開発したコダック(イーストマン・コダックおよびグループ企業を含む、以降「コダック」)と、それを追撃した日本の有機EL材料メーカーや電機系企業の動向に注目してみました。“日本の有機EL技術:中編”では、海外企業(日本企業も含む)との共同開発や合弁を事業化につなげた“韓国企業のしたたかさ”を日本特許の経過情報も活用して注目してみます。
なお、“後編”では照明事業開発にかじを切った欧米企業と日本企業の動向に、焦点を当ててみたいと思います。
有機EL事業開発をめぐる韓国企業の知財取得状況
コダックの積層機能分離型有機EL素子が学会発表*されてから、各社の有機ELディスプレイ事業開発競争が始まったわけですが、当初有機ELに取り組んだ米国・欧州・日本の企業は2000年代半ばに技術開発投資意欲を失い、有機ELディスプレイをめざしていた米欧日の各企業は順次撤退しました。
そして、有機ELディスプレイに関わる「ダウケミカルの有機材料や、3MとNECのレーザー転写にかかわる、それぞれの技術および知的財産権の一部」はサムスングループ(以降、「サムスン」)に譲渡され、「コダックの技術および知的財産の利用権」は2010年にLGグループ(以降、「LG」)に、その利用権が譲渡されています**。
Tang, C. W.; VanSlyke, S. A., Organic electroluminescent diodes, Applied Physics Letters (1987), 51(12), 913-15.
**特許権の移転うち、既に権利が移転された特許については、特許電子図書館(IPDL)の経過情報検索で確認することができます。
クロスライセンス契約締結の真意
その前年の2009年6月に、LGは出光興産との戦略的提携(第6回参照)で、有機EL特許のクロスライセンス契約を結んでおり、LGは出光興産から高性能有機EL材料提供とデバイス構成の提案を受け入れられるようになっていることも忘れてはなりません。この事実は、出光興産が有機EL用材料を評価するために、自社有機EL材料を用いて有機EL素子の試作を行っており、自社材料に適した有機EL素子の構造やその製造方法について提案する技術力を備えていることの証と捉えられます。
この戦略的提携は、LGが当面の有機EL関連材料を確保するだけでなく、自社グループ企業であるLGケムの有機EL材料技術に関わる技術開発力の向上を狙ったものと推測されます。
なぜなら、日本の有機EL材料メーカーは各社とも有機EL材料評価用素子を試作し、有機EL材料と積層方法との適合化を図りつつ、有機EL材料開発を進めてきました。一方で、日本の大手電機系メーカーは有機EL材料を合成できる部門を抱えていますので、自社の考える有機EL素子構造や製造方法に適した有機EL材料の試作を行い、その結果、得られた特性と化学構造の関係を把握しながら、材料メーカーに合成/製造の依頼を繰り返して最適化を進める構図になっています。
ですから、早い時期から有機EL材料開発に取り組んできた出光興産は、韓国電機メーカーのLGが欲する技術レベルの有機EL素子構造やその製造方法に関わる技術を提案する力を備えていることになり、有機EL材料を手掛ける日本の各企業も同様な技術レベルにあると推測されます。
大型ディスプレイ市場と、モバイル端末向け市場のリスク
現在の有機ELディスプレイ業界は、中小型有機ELディスプレイから大型TVへの展開を狙うサムスンと、大型TVで巻き返しを狙うLGとの争いという構図になっています。そして、最新の注目すべき業界動向は、アップルの高機能携帯電話(スマートフォン:iPhone)と携帯端末(iPad)が引き起こした携帯型機器市場の興隆と、それに応じた中小型有機ELディスプレイ需要の活発化に、日本企業がリスクを覚悟してどう対応するのがポイントになります。
ここでは、中小型ディスプレイに関わる各日本企業が自社の現状を踏まえ、有機ELディスプレイ製造の事業競争には参戦しないとの決断を含め、「ストーリ性をもって語れる自社の最適策」を講じる必要があります。
それでは、有機ELディスプレイ事業における、日米欧各国企業の撤退と韓国企業(サムスン、LG)の関わりを、既に紹介したことも含め、“韓国企業のしたたかさ”の視点から振り返ってみましょう。
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