技術革新には勇気が必要――デザインファイナル:第8回 全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(3)(3/3 ページ)
今回はデザインファイナル5校の車両設計のポイント、デザイン審査委員長の小野氏のコメントなど紹介
豊橋技術科学大学
同校の昨年度車両は第7回学生フォーミュラ大会で、加速性能賞1位を取った。しかしコース走行では、成績の伸びがあまりよくなかったという。旋回性能が不足していたと考え、いくつかある旋回性能のパラメータの中から「軽量」「低重心」「低ヨー慣性モーメント」を重要なファクタとして挙げ、従来の加速性能を維持しながら、旋回性能を向上させることに努めた。車両長も短く切り詰めることで、さらなる軽量化と低ヨー慣性モーメントを狙った。また前回も紹介したように、サスペンションをプルロッド方式にして、アブソーバ(バネ)の位置を低い位置へ持ってくることで、低重心化した。
カーボン部品で軽量化
採用して3年目となるカーボンモノコックと併せ、ディスクブレーキ(ブレーキローター)、排気のエグゾースト、ステー類など細かい部品などもカーボン材料に置換することで軽量化を実現した。ディスクブレーキは車両中心から遠い個所の部品であるため、その軽量化は低ヨー慣性モーメントにも貢献している。4気筒エンジンを積み、13インチタイヤを装着している車両にもかかわらず、車両重量は195kgに収まっている。これには、カーボンモノコックの採用が非常に寄与しているだろうと小野氏はコメントした。
カーボンモノコックの技術
構造解析でカーボンモノコックの応力が集中する個所を調べたうえ、最適なカーボン積層枚数を決定した。強度が必要な個所には積層を増やし、力が掛からない個所は逆にカーボンの積層枚数を薄くして軽く――基本的に、上智大学と同様のコメント。カーボンモノコックの重量や剛性は昨年とほぼ変わらない(16.5kg)。
ねじ締結部にはインサートを使用。締結しても容易につぶれないよう、カーボンを40枚ぐらい積層したものに、ヘリコイルを入れて雌ねじを作った。さらに、ねじの緩み止め機構を用いて、より安全な締結を実現した。
サスペンション
旋回性能を「即応性」「追従性」「減衰性」「回頭性」の4つに分類。ドライバーから、「ハンドルを切ったときの応答性が悪い」とコメントをもらったことで、特に即応性に着目したとのこと。即応性は、重量、低ヨー慣性モーメント、荷重バランス、速度……といったパラメータからグラフを作成し最適な条件を検証した。
(カーボンのベース+ヘリコイルの締結部について)アルミインサートを入れるやり方もあるんだけど……
アルミとカーボンでは、熱膨張係数などの特性が違ってくると推測しました。温度変化などによって形状(大きさ)が変化した際、アウターとインナーの間のコア材がはく離・破壊することを防止するため、(異素材同士は避け)カーボンにしました」
ミュンヘン応用科学大学(University of Applied Sciences Munich)
今年は、海外から参加したチームが1校、デザインファイナルに進出した。ミュンヘン応用科学大学は今年、たまたま同校の夏休みと重なったことがあって、日本大会に参加することを決めたという。今回は、パフォーマンスを発揮し切れなかったが、日本にきて非常によかったとのこと。(日本大会へ遠征するにはお金が掛かるため、スポンサーが見つかれば……という条件付きで)ぜひ来年も参加したいとのことだ。
ミュンヘン応用科学大学の車両開発は、タイヤからすべてがスタートするという。彼らは、まずタイヤを選んでから、すべてのキネマティックを作る。ドライバーが的確にコントロールできることも非常に重要なので、タイヤとドライバー、その2つの要素をうまくつなげられるサスペンションジオメトリと、それを維持できるだけの剛性を十分に持っているシャシーが必要と考えたとのことだ。
さまざまな体格差に対応
ほかのポイントとしては、体格がさまざまなドライバーが乗りこなせる車両であることを重視しているという。それぞれのドライバー専用のシート(パッド)を用意した。
プロのレースでも使われる機構
日本大会に参加する学校の多くは、キャンバ角の調整をする場合、シムを何枚か挟んで調整をする方式を取っている。しかし同校の車両には、プロのレーシング車両でもよく使われるキャンバ角調整機構(細かい刻みの入った2枚板をかみ合わせ、ずらして調整)を採用しているとのこと。同校はいままでの大会で、オートクロス審査の際にダンパのストロークセンサなどで車両のデータをチェックしながらキャンバ角をセッティングしていた。しかし今回の日本大会では、走行中にドライブシャフトが破損してしまうというアクシデントがあり、データ採取がうまくいかなかった。後のアクセラレーション審査で、キャンバ角を寝かし過ぎて設定してしまったことで、残念ながら失敗に終わってしまったとのことだ。
現在、ドイツ国内にある学生フォーミュラチームの数は、約120。欧州全体だと約500チームぐらいあるという。欧州の大会も、日本と同様に多くの企業に支援してもらい成り立っているとのこと。また学校からは、資金の援助、活動場所などを提供してもらっている、とこちらも日本と同様。
欧州の大会では、エントリーしたすべての学校が大会に参加できるのですか?
大会レギュレーションについての理解度テストがあり、それにパスができた大学だけ参加できます。6分以内で質問に応えないと失格になってしまいます。非常に厳しいテストです。
「今年もFRレイアウトの車両など、さまざまなユニークな取り組みをしてきたチームもありました 。ほかと違うアプローチをするのは、勇気が必要ですが、イノベーション(技術改革)には勇気が必要です。恐れずに挑戦をしてください」(小野氏)。
第1段階は、基本に忠実な設計をして、大会の動的審査で確実に走行できる車両を目指す。その第2段階としては、やはり学生ならではの自由でユニークな取り組みにもチャレンジしてみる。デザインファイナルは、その第2段階(もしくはそれ以上?)をクリアしている車両ばかり。
彼らの車両作りへの強いモチベーションは、いったいどこから湧いてくるのか?
次回は、「いまさら聞けない シャシー設計入門」を執筆するプロのメカニック 山本 照久氏にバトンタッチ! 第8回大会 優勝校の大阪大学に突撃レポートした。(次回に続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 学生フォーミュラから学ぶ「ノウハウ継承」と「課題解決」
学生が“クルマ作りの総合力”を競う「学生フォーミュラ」。上位を狙うためには、培ったノウハウや技術を先輩から後輩へ継承する手法や課題解決方法、プロジェクト遂行力のあるチーム作りなどが非常に重要となる。常勝校はどう継承しているのか。また課題解決に必要なスキルとは? - 2016年の学生フォーミュラは過去最多106チームが参加、インドや中国からも
自動車技術会は「第14回 全日本学生フォーミュラ大会」の開催概要などを発表した。会場は例年通り、静岡県袋井市の小笠山総合運動公園(エコパ)で、2016年9月6〜10日の5日間で実施する。エントリーは過去最多の106チームだ。 - 大学4年生になっても続けたい、学生フォーミュラでのクルマづくり
学生フォーミュラのピットを周ってみると、各校の個性が見えてくる。マシンのコンセプトが異なるのはもちろん、苦労していることや抱えている課題もさまざまだ。取材に快く応えて生き生きと話してくれる、学生たちの笑顔がまぶしい。 - 学生フォーミュラ上位入賞のカギは? 今大会のトップ2に聞く
車とバイクが大好きなモノづくりコンサルタントから見た「全日本学生フォーミュラ大会」とは。2017年も楽しくレポートします! 最終回はあの大学と、大会のトップ2に話を聞いた。【訂正あり】 - 車両火災が!……でも実証された安全性
走行車からの奇怪音や発火事故が発生した第6回 学生フォーミュラ大会。走行審査の中継アナウンサーにその舞台裏を直撃! - 大丈夫。その失敗は必ず来年へつながるよ!
お待たせ! 「明るく楽しいモノづくり」を提唱するコンサルタント 関伸一氏の学生フォーミュラ観戦記の2回目をお届け! さて今回の4校はどこ? シンクフォーの山下祐氏もまた登場。