回転する部品に指定する「振れ公差」:製図を極める! 幾何公差徹底攻略(9)(2/2 ページ)
同軸度と振れ公差は、どちらも同じものと勘違いしていないだろうか? 今回は、その区別をはっきりとさせよう。
次に、振れ公差は回転する動的な部品に指示をします。平行に並べたローラーの回転する表面の隙間を管理して部品を搬送する構造物(図6)を例に説明していきます。
軸の両端をそれぞれケースに配置した2個の軸受で保持する場合、この2つの軸受の共通軸線が製品の基準であるデータム軸になり、ローラー表面が機能面となり振れが要求されます。
幾何公差を使って図6のローラー軸を表す場合、共通軸線として表現するため一方をデータムA、もう一方をデータムBとします。
その他の幾何特性に使用しないのであれば、どちらがデータムAでもデータムBでも構いません。データムAとデータムBの共通軸線を参照していることを表すために「A-B」として表現します。
ここまでで、同軸度は静止して使用する部位、全振れ(円周振れも同様)は回転して使用する部位と使い分ければよいことを知りました。
以降では、振れ公差である円周振れと全振れの代表的な図面指示例を確認していきます。
円周振れ
JISによると、「円周振れ(Circular run-out)とは、データム軸直線を軸とする円筒面を持つべき対象物、またはデータム軸直線に対して垂直な円形平面であるべき対象物をデータム軸直線の周りに回転したとき、その表面が指定した位置または任意の位置で指定した方向に変位する大きさをいう」と定義されます。
円周振れは、任意の位置での振れのみを評価するものです。つまり、振れた領域はある一方向から見ると、まるで2次元のような領域であることが特徴です。
図8に示す図面例は、段付き軸の左右の小径側の中心軸を共通データムとして回転させたとき、大径側の任意の位置の円筒表面がデータム軸と同軸となる幅0.05mmの2円間にあれば合格品と判断されるものです。それぞれの直径に寸法公差が記入されていますが、独立の原則に従うため寸法公差とは無関係に円周振れを満足させればよいということです。
図9に示す図面例は、段付き軸の小径側の中心軸をデータムとして回転させたとき、大径側の任意の位置の円筒端面がデータム軸と直角な幅0.05mmの2面間にあれば合格品と判断されるものです。それぞれの直径や長さに寸法公差が記入されていますが、独立の原則に従うため寸法公差とは無関係に円周振れを満足させればよいということです。
全振れ
JISでは、「全振れ(Total run-out)とは、データム軸直線を軸とする円筒面を持つべき対象物またはデータム軸直線に対して垂直な円形平面であるべき対象物をデータム軸直線の周りに回転したとき、その表面が指定した方向に変位する大きさをいう」と定義されます。
全振れは、指示した面全体の振れを評価するものです。つまり、振れた領域は3次元領域であることが特徴です。
図10に示す図面例は、段付き軸の左右の小径側の中心軸を共通データムとして回転させたとき、大径側の円筒表面全体がデータム軸と同軸となる幅0.05mmの2円筒間にあれば合格品と判断されるものです。それぞれの直径に寸法公差が記入されていますが、独立の原則に従うため寸法公差とは無関係に全振れを満足させればよいということです。
図11に示す図面例は、段付き軸の小径側の中心軸をデータムとして回転させたとき、大径側の円筒端面全体がデータム軸と直角な幅0.05mmの2面間にあれば合格品と判断されるものです。それぞれの直径や長さに寸法公差が記入されていますが、独立の原則に従うため寸法公差とは無関係に全振れを満足させればよいということです。
以上、2種類の振れ公差を確認しました。回転方向の円筒外表面や回転と直角な円筒端面方向のどちらにも使えることが分かりました。
これにて、4つのグループに分類される幾何特性の全てを確認しました。次回はいよいよ最終回。幾何公差の相互関係について説明をします。(次回に続く)
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