設計者必携! 板金設計がマスターできる絵辞書:甚さんの「バンバン板金設計でキャリアアップ」(1)(1/2 ページ)
これまでの「甚さんシリーズ」の解説を少し振り返った後、この連載で使うツール「板金設計の50%がマスターできる絵辞書」を紹介する。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
板金設計を身に付けるには、実務経験(キャリア)が必須です。
ある学校の製図の教科書は、全150ページあります。その内、板金図面はたったの1ページ、樹脂部品の図面はなんと0(ゼロ)ページ。これでは、グローバルで戦えません。図面力を付けるコツの早道は、後述する板金の設計力を付けることにリンクしています。「板金の設計力を付ける」と言っても、学校では教わらないので、実務で学ぶしかありません。
料理人、美容師、理容師、医師、看護師、運転手……。全ての学校には教科書が存在します。そして、教科書の講義が終了すると、実務があります。自動車運転免許の教習所を思い出せば、容易に理解できるでしょう。
それでは、甚さんが教える設計実務の新シリーズを始めますよ!
僕は、図面が描けない
「図面描けねぇ、読めねぇ院卒」のオメェは、最近どうだ?
エヘッ。甚さん、残念でした! 僕は、山田学先生の本で、製図はほぼマスターしました。
それは本当か? さすが、富士山麓大学首席の院卒だ。よくがんばったな。世の中、学歴社会ではねぇーぞ。高学歴だからと言って、自分を卑下するこたぁねぇ。高卒や、専門学校卒に負けるな。オイラについて来い!
実は甚さん……、図面を読めるようにはなったんですが、いまだに、描けないんです。つまり、設計ができないんです。製図は専門学校卒のエリカちゃんに教わっていますけど……。実務の方は、引き続き、甚さんが僕の面倒をみてくださいよ。
図面を読めるようにはなったものの、相変わらず描けない良君なのでした。
なんて面倒くせぇヤツだ。よーし、分かった。そんじゃ、図面力を付けるには、板金設計力を付けることが近道だ。その理由はだなぁ……。
図1は、過去の「甚さんシリーズ」で何回か出てきました。筆者の書籍や技術論文でも何度も出しているデータです。
左図は、電気・電子機器に関する部品のコスト分析です。隣国の工業界が急激に実力を付けた今、「低コスト化」活動は必須です。当事務所では、各クライアント企業に、「樹脂⇒板金⇒切削⇒その他」の順に改善を施すことを指導しています。
一方、図1の右側は、小指の爪ほどの大きさの部品を1点、両手を広げるような部品も1点と数えた部品点数分析です。ほぼ、図面の枚数と理解します。
ここで、良君のように図面の苦手な技術者や新入社員、あるいは職場異動社員が「即戦力」となるためには、「板金⇒樹脂⇒切削⇒その他」の順で修得することが効果的です。もちろん、図面力も同様なのです。
うちの大学で使っている教科書も、「全150ページで、板金図面はたったの1ページ、樹脂図面はなんと0(ゼロ)ページ」なんですよ。
いくら入学式を9月にしたって、そんじゃ、グローバルで戦えねぇよなぁ? あん?
しかもいまだに3次元CADがなくて、製図の授業は、100円ショップで売ってる方眼用紙と三角定規を使ってやってるんですよー。
良君、もうよせ! 愚痴っぽくなってきたぜぃ! 「図面読めねぇ、描けねぇ院卒」を他責にするな。実際、オメェは自己研鑽(けんさん)で「読める」まで上達したんだ! 「図面描けねぇ院卒」になったわけだしな。
ほめられているのか、けなされているのか……。ま、いっか。そんじゃー、バンバン板金でドンドン・キャリアアップしちゃいましょう!
おうよ! うぇーいうぇーい、バンバンバァーンッ!!
(なんなのだ……。この謎のノリは)
学者ではない設計職人には、学問の上に「実務経験」が必須です。良君が図面力を身に付けるための早道は、図1に示す板金の設計力を付けることにリンクします。理由は簡単です。図面100枚中54枚は板金部品、つまり、図面2枚のうち、1枚が板金図面なのです。
そんじゃ、始めるぜぃ! 板金設計の実務として、重要な知識は、樹脂部品と設計同様に「設計サバイバル術」の修得が肝心だぁ。オメェにとっては復習になるぜぃ! うぇいうぇーい!
おかげさんです。「甚さんの設計サバイバル大特訓」で学んだ内容は、早速業務に反映していますよ!(図2)
この連載では、図3に示すようなL字型板金で「断面急変」の設計サバイバル術を試してみました。
この部品の断面をX方向から徐々にスキャンし、Y方向からも同様にスキャンしていきます。こうして、断面が急変している部分を探していきました。
ご存じでない方は、この連載を読み進める前に、ひとまず『甚さんの設計サバイバル大特訓(1):設計サバイバルの合言葉は「断面急変」だ!〜先輩たちには内緒だぞ!〜』をご一読いただくことをお勧めします。「設計サバイバル術」とは一体何なのかも、この記事の最後で説明しています。3次元CADで、あなたの携わる部品の3次元モデルを使ってやってみてください。
技術者の4科目と実務
どうですか、甚さん? カッコイイっしょ? 僕はCAEのプロだから、こんな断面スキャンは超〜カンタンですー。
オメェ、まだそんなせりふを言っているのか? 技術者というのはな、「技術者の4科目」を満たして初めて、職人となれる! と、何度言ったら分かるんだ。解析だけの仕事なら職人じゃねぇ〜〜っ!
甚さん用語
技術者の4科目:國井技術士設計事務所が推進するキーセンテンス。4科目とは、Q(Quality、品質)、C(Cost、コスト)、D(Delivery、期日)、Pa(Patent、特許)を意味する。近年、「D」は「開発スピード」とも解釈する。
う〜〜〜ん、前にもお話ししましたけど、僕、CAE(解析)しかやってきていません。だから、「Q」だけです。4科目のうちの、たった1科目だけです。僕は、4科目を全て含んだCAE技術者になってやるぅ〜〜っ!
実務とはなぁ、英語と全くおんなシだぁ。つまシ、英文法から入ると、「3年+3年」も学習して、ひとっつもしゃべれねぇときたもんだ。んだから、英語は英会話からへいるんだ。分かったら「ハイ」と言え!
ハイッ!
設計も同じで、「応力集中」や「加工硬化」や「断面係数」や「縦弾性係数」や「横弾性係数」などの学識から入るのでなく……。
そうなんです。機械設計も英会話と同じ。機械工学の学問から入るのではなく実務から入ればいいのです。その実務の基本知識、それが、「設計サバイバル術」、つまり、先ほどの記事の「断面探索スキャン」であり、「断面急変部を回避する」から入ります。
まず少しだけ英会話を覚え、異国の人たちとコミュニケーションが取れる感動を味わった後に、英文法で誤りを正せばいいのです。同様に、設計では、3次元CADでやさしい「断面急変」を実施して、「機械設計ってカンタンなんだ!」と感じた後に、応力集中や断面係数などの学問を学べばいいのです。
ここ、注意が必要ですよね。「学問なき実務者の作品や設計物は、『砂上の楼閣』となる!」
おぉ、さすが、院卒だ! 理解だけは早い! 気に入っちまったぜぃ! そんじゃ、ここで、ちょっと一休みするかい。これから、駅前のシーデー(CD)屋に行って「きゃりーぱみゅぱみゅ」のファーストアルバムを買いにいくぜぇ! うぇーいうぇーい! ぽんぽんぽーーーーーんっ!!
甚さんのは、ちょっと勇まし過ぎですよ……。
もちろんこの連載も、この考え方に基づいて進めていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.