学生フォーミュラのこと、もっと知ってください:第7回 全日本学生フォーミュラ大会 事前レポート(2/2 ページ)
自動車の設計製作技術を競う、学生のためのモノづくりコンペティション 全日本学生フォーミュラ大会。今年は2009年9月9〜12日の4日間、静岡県袋井市内の小笠山総合運動公園(通称「エコパ」)にて行われる。今回は、運営者の大会にかける切なる想いと熱意をお届けする。(
「日本はモータースポーツがあまり盛んではありません。活躍している人も有名人もいますが、海外と比べてしまうと盛り上がりは控えめですよね」(中村氏) 。 もっとモータースポーツが盛り上がっていれば、学生フォーミュラに関心を持つ学生も増えるだろうし、世の中の関心も多くいくだろうとのことだ。
また、広報面でもまだまだ工夫の余地がある。大会を盛り上げていくには、モータースポーツの関係者の手助けも必要だと中村氏はいう。例えば鈴鹿サーキットのような有名な場所で開催するだけでもマスコミは注目する。イギリスのフォーミュラ大会は、広報活動を強化しており、マイナーなサーキットからシルバーストン・サーキットへ会場を移転したり、大会広報がロス・ブラウンのような有名人を取材し、大会について語ってもらったりしているという。日本でいえば、中嶋 悟や鈴木 亜久里に取材するようなものだ。
「エコパで行われる大会は、子供にとっては安全とはいい難いです。その辺を走り回るでしょうし。そういう意味でも、安全面で整備された有名な会場を使いたいですね」(中村氏)。
ただ学生フォーミュラはモータースポーツの選手にも注目されてきており、一部では技術サポートも受けているという。中村氏の望む方向への転換は近いのではないだろうか。
大会とボランティア
「日本は企業の力が強い。これが日本の独自性ともいえるのですが、これからはそうはいかないでしょう」(中村氏)。今日の不況では、企業が大会のために平日に人を出すのも厳しくなってきている。そのような事情からも、ボランティアをうまく集めていく工夫が必須だという。
日本のフォーミュラ大会では、ボランティアを取りまとめる組織が、まだうまく育っていないという。海外はモータースポーツが盛ん、つまり愛好家がたくさんいるということ。そういう土壌であるので、大会を助けるボランティアの数が多く、彼らのコミュニティも非常に強いという。
ホンダの社内には、同社OBを中心に構成する「マイスタークラブ」というボランティアチームがあり、学生フォーミュラに参戦する学生たちに技術指導や講習を行っている。
上智を負かすチーム、早く出てきて
第6回の優勝校 上智大学は3連勝目で、その記録を更新中だ。同校は満点近いスコアを取ってしまう。
上智大学の強い理由は、何か?
「技術継承ができていることです。それができないと、チームは強くなれません」と中村氏。フォーミュラチームも通常の部活動のように代変わりがある。その際に、しっかり技術の継承ができていることが鍵となるという。ほか、余計な冒険せず、堅実派であることもその理由として挙げた。常連校でいまいち成果が残せないような学校は、どうも冒険し過ぎる傾向があるそうだ。
「上智を脅かす大学がもっと増えてほしいです。増えてくればもっと大会は盛り上がるでしょうし」(中村氏)。昨年は、東京大学と上智大学が、ほぼ一騎打ち状態となった。「東京大学は、ここ数年で急によくなりましたね。CVTを入れるなど技術的な工夫もしていますし。失敗をバネにしてよく頑張っています」(中村氏)。
学生フォーミュラの参加校は、常連校と新参校との技術の差の開きが大きい。新参校は、動的審査での走行にいたるどころか、車検もなかなか通らないという現状だ。新参校のフォローが今後の課題だと中村氏はいう。
「学生のレベルを底上げしつつ、満べんなく上げていくには、私たちが試走できる場を増やす手助けをすることだと思っています。車は走らすことで、熟成できます。上智大学のような強いチームは、周囲から注目されていますから、試走する場所の援助を受ける機会が多くなり、月1ぐらいで走っているみたいです。しかし、知名度も低くコネがないチームは、そうはいきません。そうして常連校と新参校とのレベルの格差が開いてしまうんです」と中村氏。参加校全体の平均点を上げれば、大会は更に活気付いて、全体のレベル向上も拍車が掛かるだろう。
モータースポーツ関係者は、コースのオーナーでもあるので、そういった面でも協力を仰げればと考えているとのことだ。
これからの時代はEVだ!
「私が見ている限りでの話になりますが、4気筒から単気筒に変える学校が多いですね。自動車を軽量化しエンジン効率をよくして、エンジンのパワーに頼らないような設計にするチームが多く見られますね」と中村氏はいう。日本大会の第5回では、ホンダテクニカルカレッジの155kgが最軽量だったが、これはアメリカ大会レベルでみても相当なことだという。
今回は当日に電気自動車(EV)が試走する。静岡理工科大学が製作した車両だ。原油は枯渇に向かい、環境問題への対応も義務化されている中、車両もガソリンの代替えとなるエネルギーにシフトすることが余儀なくされている。そんな将来を見据えたテスト走行というわけだ。
現状の技術では、ハイブリッドカーだとどんなに頑張っても350kgぐらいになってしまう。これはフォーミュラカーの倍ぐらいの重量ということになる。ハイブリッドカーに搭載するレース用モータのサイズが大きいためだ。「イギリスは今年の大会で、ガソリン車とハイブリッドカーと燃料電池カーを一緒に競わせたんですね。しかもハイブリッドカーがエンデュランスで上位に食い込んだんですよ。重量が重いのに……。これには観戦者の誰もが沸きました」(中村氏)。
電気自動車はガソリン車に比べて低速トルクが強い。ガソリン車は低速トルクの弱さをドライバーのテクニックでカバーするしかない。「電気自動車(の運転)は素人向きです。運転はガソリン車より面白いんじゃないかと思います」(中村氏)。フォーミュラカーの設計前提は、「素人でも乗れること」。そういう点では電気自動車はフォーミュラ車両向けの技術ともいえる。
「もしかして、ガソリン車のように1年で車両をまとめることができないかもしれません。もし将来、大会に電気自動車の部門ができるとしたら、開催タイミングも考えなければいけないでしょうね」(中村氏)。
自動車に限らず、家電業界でも、機械と電気のグレーゾーンは広がりつつある。現状は、電気分野が弱いという機械設計者という機械設計者が多い。工学系の専門教育で電気も教えなければならない時代が近いといえそうだ。
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