加工者の技能と心遣いを引き出すための製図:製図を極める! 幾何公差徹底攻略(2)(2/2 ページ)
設計意図と併せ加工現場の事情もできるだけよく考えながら幾何公差を指定する。それが部品や製品の品質を高める。
普通に考えると、次のような手順で加工するのではないかと思います(図2)。
- 母材をチャックし、右側の形状を切削します
- 部品を取り外しひっくり返してチャックします(この作業のことをよく「トンボ」と呼びます)
- 右側から穴加工を行います
ここでポイントとなるのが、加工するために部品を取り外し再チャックしていることです。工作機械にチャックして加工したものを、さらに再チャックし直した時点で同軸や位置の狂いが発生してしまいます。
ここで、もう一度図面をよく見てみましょう。
図3の左側に公差付きの穴(φ20H6)、右側に公差付きの円筒(φ20h6)があります。
設計者ならピンと来ると思いますが、はめ合い公差を使っているということから、この部品には軸受けなどの機能部品が挿入されることが想像できます。しかも、左右にあるということは同軸が必要であると想像できます。
*本来なら組立図を参照します。ただし本例では組立図がないため、想像の上で判断するとしました。
しかし図面上は寸法公差が指示されているだけで、左右の穴と円筒の同軸は何も指示されていません。従って、先に説明した加工方法で問題はないのです。ところが経験豊富な加工者は、当然のように「同軸度が必要だろう」と考え、下記のように同軸を保証するためチャックから外さないように、常に右から加工をする手順を考えてくれるのです(図4)。
このように、同じ図面でも加工する人の考え方1つで加工手順が異なります。見よう見まねの加工方法で最終形状を目指して加工するのか、部品の機能を知って手順を考慮して加工するのかでは、部品の持つ幾何特性(形状や位置の狂い)が異なります。
さらに、上記の加工工程の違いによるばらつきに加え、どんなに一流の技能を持った加工者が、どんなに高価な工作機械で加工したとしても、寸法がばらつくのと同様に、必ず“カタチ”も理論的形状からわずかに崩れます。
ある部品が図面上で直線、円、あるいは平面で示されている場合、もちろん加工者はこの部分ができるだけ正しい直線、円、あるいは平面となるように加工しようと努力します。ところが、幾何学的に正しい形状へ完ぺきに仕上げることは不可能なのです。
モノづくりのグローバル化によって起こる問題
現在、国内で大量生産した実績のある部品の製作を新興国(中国や東南アジア)に移行してコストダウンを試みます。ところが生産拠点で日本国内とまったく同じ図面を用いて部品を製作すると、「組めない」「機能が出ない」という不具合が出てしまう、という問題が多くの企業で発生しています。
日本国内の製作では不具合の発生がないのに、海外で不具合が発生する原因とは、加工者の心遣いと技能(「Good Workmanship」)の違いであると考えられます。この心遣いと技能を上手に誘導するのが、普段皆さんが描く図面ではないでしょうか? 国籍や経験を問わず、同じ解釈になる図面を描けば、正しい加工方法や手順を選択してもらえるはずです。また現地の検査時でも、的確な部品不良の選別が可能となります。
設計者の意図を表し、要求する機能や計測方法まで指示した上で、幾何特性がどの程度まで狂っていてもいいのかを規定する必要があります。つまり幾何公差とは、このような問題に対処するために考案されたものであって、対象物の形状や位置の狂い(これらを「幾何偏差」といいます)に明確な定義を与え、その幾何偏差の許容値(幾何公差)の表示ならびに図示法について定めたものなのです。
幾何公差は計測方法を指示することも可能です。次回は、幾何特性を測定する際の注意点や測定機器について解説します。(次回に続く)
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