本格派仮想企業・上智大! 3連覇の秘密:第6回全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(4)(3/3 ページ)
今大会で3連覇を果たした上智大学チームの車両設計の秘密に迫った。各パートリーダーが登場!
熟成を重ねるエンジン
――エンジン関係はどうでしたか。
安 彰柱さん(パワートレイン リーダー):昨年はサージタンクによる共鳴吸気の手法を取り入れましたが、今年は吸気管長を32mm伸ばしてトルクのピークを500rpm落とし、トルクカーブを全域にわたってフラットに設定しました。
この設計には、僕の研究室の先輩が制作した解析プログラムを改良したオリジナルのソフトを用いています。これは吸気管の長さと等価面積を設定すると空気の流入量を導き出せるというもので、これで得た1次元データを3次元データのFLUENTの境界条件として解析しています。
ほかにも改良個所はあります。例えば最初に話した他大の症状は、横Gが掛かって燃料タンク内の燃料が偏りを起こすことで発生していました。こういった問題への対策として私たちは流体解析の結果からタンク内に適正な形のバッフル板を設置することで、燃料の偏りを解消しています。また同様の理由で、エンジンのオイルパン内部にもバッフル板を設けています。こうした液物の解析にもFLUENTを用いています。
バッフル板は厚さ1mmのアルミ板ですが、FEMで解析すると時間がかかってしまうので工夫が必要でしたし、性能を確保するために形状を複雑にすると解析のメッシュも細かくしなければならず、苦労しました。
――オイルの粘度も条件に入っているのですか?
安さん:いいえ、そこまで細かい条件付けはできておらず、現状では流体を気相と液相としてしか扱えていません。ただしエンジン内部は高温でオイルもサラサラになりますから、粘度についてはほぼ無視できるという事情もあります。解析はあくまで解析であって判断材料の1つにすぎないのですが、タンク内の見えない液体の振る舞いをコンピュータで再現して可視化できるだけでも、メリットは大きいです。
モデリングとファイル管理
――チームでモデリングするときの注意点はありますか?
門倉さん:部品はすべてCADで設計し、すべての図面に番号がありますが、ファイル管理では「どのファイルが最新の物か」が分かるようにしています。特定のフォルダを開けると最新の図面がいつでも見られるようになっています。
――ファイル管理の方法について
門倉さん:企業がしているように、車両モデル別にディレクトリを分けたり、車両の全パーツの名前を大分類、中分類……というふうに分類したりしています。パーツに付与される設計番号も、変更の都度更新するようにしています。
ほかには、各設計パート同士で話し合いの場を積極的に持ち、相互に意思疎通を図るようにも努めています。
次を見据えて
――来年以降に向けての課題
小野さん:全日本学生フォーミュラでは3連覇を達成できましたが、私たちはチームの目標を「Prove to the World 真価の証明」と掲げている通り、世界の舞台で強さを証明しなければ、本当に頂点に立ったとはいえません。
実は今年5月の本家アメリカでの大会では121位中78位、しかも動的イベント種目には参加できずに総得点も229点にとどまるという苦しい結果に終わりました。
それまでチームを引っ張ってきた修士1年生から学部2年生に世代交代する中での出来事だったとはいえ、メンバーの誰もが精神的にも肉体的にも追い込まれていきました。そんな中でもメンバー同士が支え合い、日本大会で結果を残せたことは大きな自信となっています。これをベースに、課題を着実に克服して世界で勝てるチームに成長することが求められているのです。
インタビューを終えて
上智大学「Sophia Racing」の強さは何かと考えると、世界水準をベンチマークとしながらも、必ずしも奇をてらった大胆なことはせず、地道に改良に改良を重ねていることにあるように思います。
実はトライ・アンド・エラーを繰り返しながら成果を積み上げて技術を熟成させることは、レース競技においても定石であり、開発の常道です。そこにいかに忠実になれるかがチームの力を左右していると感じます。上智大学「Sophia Racing」のこれからの活躍に注目です。
Profile
斉藤円華(さいとう まどか)
1973年生まれ。旧車、自転車に強いライター。現在Webサイト「エンスーの杜」で連載コーナーを持つほか、雑誌「サイクルスポーツ」「オールドタイマー」などで執筆中。
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