“見えるだけ”では現場は動かない、成果につながる「見える化」5つの工夫:DX Compass:標準化のわなと現場の知恵(5)(2/2 ページ)
実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説する本連載。第5回となる今回は、見える化(データの可視化)について考えます。
見える化で調達コストが改善したケース
2つ目のケースとして「調達価格の見える化」を紹介します。複数の工場を持つ製造業で、それぞれの工場でお互いのデータは直接見えないようになっていました。しかし、工場間の交流が進んできたタイミングでシステム統合を行い、同じ部材の価格を見た際に、他の工場の価格も並べて見えるようにしました。
実際に並べてみると、単価が高い工場と低い工場が一目瞭然になりました。A工場の方が同じ部材を安価に調達していることを知ったB工場の担当者は“まずい”と感じました。そこで、B工場では、現場の担当者がさまざまな検討を行い対策を進めました。そして、最終的に約3カ月でA工場とB工場の調達価格は同水準になったといいます。興味深いのはその後で、B工場だけでなく、両工場ともにさらに調達価格の改善が進んでいったことです(図2)。
その背景には何があったのでしょうか。確認をしてみると、B工場では、まずA工場でのこれまでの取り組みについて教えを請うたそうです。そして、その取り組みをB工場にも取り入れていきました。ポイントはこうした交流により「データの見える化」以上の知見の交換が行われるようになったという点です。
最初はA工場の方が進んでいましたが、それでもB工場では実践している一方、A工場では行っていなかった施策もありました。さらに、A工場とB工場が共同でボリュームを生かした調達コスト改善策を進めるようになるなど、データが見えるようになったことで互いの状況を理解し、真の意味で協力が進むようになりました。
先述した在庫の見える化のケースは、どちらかというと危機感を促す形での改善行動の促進となっていましたが、調達コストの見える化のケースはより協調的で、多くのアイデアを出してともに検討し、実践していくという形で、日本的であるともいえます。この2つのケースを通じて言えることは、見える化で効果を得るためには「見せ方」が重要であり、それによって人の行動を変えられるということです。
「見せ方」の5つの工夫ポイント
紹介した2つのケースに共通していることは、いずれも現実の行動や事象にひも付いた数値を対象としていることです。特に原価を見える化の対象にしていることが重要です。原価は増減という形で結果を捉えやすく、その結果が分かりやすいためです。原価を広義に捉えて、売上高や利益という概念も取り込むことができますが、その良しあしも、利益が増えるのか減るのかという一つの軸で判断できます。また、原価を使って、人の心理に働きかけているのも共通点です。
人は単なる「絶対値(ただの数値)」を見せられても感情が動かず、反応しません。データで人を動かすためには、次の5つの工夫ポイントを意識して見える化(見せ方)をデザインすることが重要です。
- 当事者の特定:「誰が」責任を持ち、「誰が」動くべきデータなのかを明確にします
- 比較(ベンチマーク):他拠点、過去実績、目標値などと並べ、「良いのか悪いのか」を直感的に判断できるようにします
- 変動や変化、フィードバックの表現:良くなってきているのか、悪くなってきているのかが分かるようにします。また、担当者のアクションによって数値がどう改善したかの変化を見せます
- 情報の絞り込み:人間の注意資源は限られているため、優先順位を絞り込んで提示します
- ビジュアル化(直感性):一目で「まずい」「良くなっている」が伝わる色使いやグラフにします
見える化とは「誰が」「何を」「どれだけ貢献すべきか」を明確にして、成果を期待するものです。実際に改善やDXを進めるのは人です。システム上で「見える化」を設計するときは「どんなグラフを並べるか」ではなく、「このデータを見た担当者が、次にどんなアクションを起こしたくなるか」という行動のシナリオを描いてみましょう。冷たいデータを温かい現場の成果へと変え、そのフィードバックが次の効果を生み出します。
筆者プロフィール
伊与田克宏(いよだ かつひろ)
ビジネスエンジニアリング
プロダクト事業本部 カスタマーDX推進部 部長
生産/販売/原価管理システム「mcframe」のユーザー会(mcframe Users Group: MCUG)の運営を事務局担当として20年間にわたり支えるとともに、現在は200社を超える製造業会員各社の課題解決とDX推進に尽力している。また、モノづくりとITのコンソーシアムやコミュニティーなどにも複数参画し、特にPLMやSCMに関する分科会では、積み重ねた知見を提供するとともに見識を広げ、設計製造連携や原価管理のセミナー講師も担当している。
ビジネスエンジニアリングでは、製造業の顧客向けに業務改革構想ならびにシステム化企画、ERPシステム導入のプロジェクトを数多く手掛け、その後「mcframe」の商品企画・開発ならびに導入にも従事している。
著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)。イベント講演「mcframeとユーザー会(MCUG)を通じてわかった『SCMシステム導入の真の価値と効果的な活用』」のモデレーターも務めた。
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