検索
連載

「工程仕掛かり分析」と「製品在庫分析」で無駄を減らし生産プロセスを最適化する現場改善を定量化する分析手法とは(11)(1/3 ページ)

工場の現場改善を定量化する科学的アプローチを可能にする手法を学習する本連載。第11回は、無駄を減らし生産プロセスを最適化することが可能な「工程仕掛かり分析」と「製品在庫分析」について説明します。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 「最適在庫量」という言葉をよく耳にします。しかし、そもそも工程仕掛かり量や製品在庫量に“最適”というものがあるのでしょうか。これらには全て生産経費がかかっているわけで、仕掛かりや在庫の状態にある以上、生産における無駄と認識されるべきです。つまり、これらは全て損費になるので、理想的な最適在庫量はゼロが正しいのではないでしょうか。

 今まで最適という言葉に惑わされて現状を是認し、振り回されていたことになります。このような旧態依然とした現状からの脱却に挑戦してみませんか。その材料となるのが、今回紹介する「工程仕掛かり分析」と「製品在庫分析」です。

⇒連載「現場改善を定量化する分析手法とは」バックナンバー

1.工程仕掛かり分析

 工程仕掛かり分析は、生産工程の進行状況を評価して生産効率や品質の向上などを目指すための分析手法です。この分析により、生産工程のどこで遅延が発生しているか、どの部分で改善が必要かを明らかにします。具体的には作業の進捗状況を監視し、予期しない遅延や問題を早期に発見することで対策を講じられます。

 工程仕掛かり分析により、生産全般の効率化やコスト削減、品質向上などを図ることができます。さらに、この分析を通じて、生産工程の途中で発生するコスト高の要因や資源の使用状況を評価して管理することにより、部品や半完成品、製品が製造される過程で発生する無駄を減らし生産プロセスを最適化できます。

1.1 定義と用途

 工程仕掛かり分析は、生産工程内にある原材料や部品、製品が、どこの工程にどのような理由でどの位の数量が滞留しているのか、それらの物の表示や記録、保管の状況や運搬がどのような状態になっているのかなどについて動態分析を行う手法です。分析結果は、仕掛かりの数量の削減、リードタイムの短縮、レイアウトの改善、工数の低減、品質の向上、原価の低減などに役立てます。

1.2 工程仕掛かり分析の対象範囲

 分析を行おうとする工程仕掛かりには、“工程内仕掛かり”と“工程間仕掛かり”があります。工程内仕掛かりでは、工程内で作業中の物と作業待ちの物があります。また、工程間仕掛かりは、前工程の作業が完了し、次の工程を待っている工程間に仕掛かっている物をいいます。

 工程仕掛かり分析は、この工程内仕掛かりと工程間仕掛かりを分析の対象範囲とします。主な分析のポイントは以下の通りです。この分析を定期的に行うことで、生産管理の改善や原価低減を進め、利益の増額を図ることができます。具体的には、主として、以下の項目の改善に効果的です。

  • (1)仕掛かり品の状況把握
    工程中で完成していない製品(仕掛かり品)の数や進捗状況を確認し、仕掛かり品の削減計画へとつなげていきます
  • (2)コスト管理
    仕掛かり品の原材料費、仕掛かり品の管理に費やしている労務費や製造間接費などを分析し、適切なコスト管理を行います
  • (3)ボトルネック工程の特定
    生産工程のどの部分で遅れや不具合が発生しているかを特定し、改善点を見いだします
  • (4)生産効率の向上
    徹底的に無駄を排除し、生産工程を効率的に進めるための改善案を検討します

1.3 初工程から最終工程までの数量分析

 工程内仕掛かり品と工程間仕掛かり品について、仕掛かり原因別の仕掛かり数量を調べて把握します。工程内仕掛かりと工程間仕掛かりの仕掛かり原因としては、以下の内容が考えられます。

  • (1)工程内仕掛かり品の発生原因
    作業中である、不良品の発生による待ち、不良品の再生待ち、計画的バッファーによる待ち、欠品補充待ち、作業者に起因する待ち、ロット待ちなど
  • (2)工程間仕掛かり品の発生原因
    前後の工程間の生産能力差による待ち、シフト差による待ち、運搬待ち、品種変更による段取り作業の終了待ち、計画的バッファーによる待ち、精度の低い大ざっぱな生産管理のまずさに起因する待ち、作業者に起因する待ち、ロット集約の待ちなど

1.4 仕掛かり品の状態の分析

 仕掛かり品が置かれている物に対する表示や記録、保管状況や運搬などの状態を調査して分析を行います。

  • (1)表示の状態
    仕掛かり品が置かれている状態が一目でわかるような表示、例えば、品種名、数量、置かれている理由、仕掛かり品の削除や削減の対策日などの表示があるか
  • (2)記録の状態
    仕掛かり品が置かれている状況を日々の生産管理として記録する仕組みが構築されており、実行されているか
  • (3)保管の状況
    仕掛かり原因別に、保管場所、保管方法、管理責任者、保管期限などが表示されるなど、保管の仕組みが構築されていて実行されているか
  • (4)運搬の状況
    仕掛かり品の仕掛り状態に対応した運搬方法、例えば運搬手段、運搬のタイミング、1回当たりの運搬数量などが規定されており実行されているか

1.5 予め設定された仕掛り品の数量基準と実績の評価分析

 いわゆる改善サイクルの“Plan→Do→Check→Action(PDCA)”に沿って、仕掛かり品の削減計画が立案され改善が進められているかを評価します。“Plan”では、改善目的と改善目標値、目標値を達成するための改善方法を決めます。それらの推進状況の評価分析を行います。

 全ての改善項目が実施されているにもかかわらず、目標値が達成されていなければ、追加の改善項目を検討しなければなりません。

  • (1)工程別仕掛り品の数量の基準(目標値)が期ごとに設定されており、実績との差を毎月末に分析して改善する仕組みが構築されていて、実行されているか
  • (2)期ごとの仕掛り品の削減目標が設定され、それを継続的に実行していく組織や担当者が明確になっていて、機能しているか
  • (3)設定した仕掛り品の削減目標値は他社と比較して優れているか。あるいはベンチマーク(評価基準)と対比しての評価がなされているか

1.6 工程仕掛かり分析の手順

 工程仕掛かり分析は、以下の手順で行います。また、特定の工程のみを分析対象にするのではなく、必ず初工程から最終工程までを対象にして分析することが全体最適の生産方式の構築につながります。

  • (1)初工程から最終工程までのフローチャート(Production Flow Chart:製造工程線図)を作成する
  • (2)生産条件の設定として、いつの時点の生産数と品種数を対象に改善するのかを設定し、現状分析値との換算値を明確にしておくこと
  • (3)工程内の仕掛かり品について、仕掛かり原因別に仕掛り数量の分析を行う
  • (4)工程間の仕掛かり品について、仕掛かり原因別に仕掛り数量の分析を行う
  • (5)設定した仕掛かり品の基準数量と実績値との比較を行い、基準数量を達成していない場合は、その数量差の削減計画を改めて立案して改善を行う
  • (6)さらに改善を進めていくために、次の仕掛かり品の新しい削減目標値を設定する

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る