原価の「見える化」はなぜ半年で形骸化するのか 犯人は機能不足ではなく「転記」:受託加工業に必要な原価管理(1/4 ページ)
自社の原価を把握するため、高機能なシステムの導入や精緻なExcelフォーマットの作成など、さまざまな方法で見える化を進めても、その多くが半年ほどで形骸化してしまうのはなぜでしょうか。その原因は「転記」にあります。本稿では受託加工業にフォーカスし、「案件別の原価」が見えない構造と、転記をなくす「3つの設計原則」を解説します。
自社の原価が見えていないと気づいた会社の多くは、「見える化ツール」やExcelで作成した自作フォーマットを導入します。しかし、その多くは半年ほどで形骸化してしまいます。
はっきりといいます。続かない原因は、ツールの機能不足ではありません。「転記」です。高機能なシステムを入れても、精緻なExcelを組んでも、現場が同じ数字の二度打ちを続ける限り、案件別の原価は絶対に見えるようになりません。逆にいえば、転記さえ無くすことができれば、原価は驚くほど素直に見えてきます。本稿では、この点について、受託加工業の現場に即して掘り下げていきます。
価格交渉に大きく影響する「決算からの逆算」
「決算では分かる。でも、遅すぎる」
多品種少量の受託加工業を営んでいる方なら、こんな経験はないでしょうか。
期末の試算表を見れば、会社全体がいくらもうかったかは分かります。ところが「先月納めたあの案件は、結局いくら残ったのか」と聞かれると、はっきり答えられない。材料はいくつかの案件でまとめて仕入れ、外注した製品は月末にまとめて請求が来て、現場の工数はホワイトボードと日報に散らばっている……もしこのような状態で全てを1つの案件に引き直そうとした場合、その時点で手が止まってしまいます。
多くの現場では、個々の案件が黒字もしくは赤字なのかを、決算という「全体の結果」からしか逆算できません。しかし、決算によって結果が判明するのは、案件が終わってから数カ月後です。そのため、見積もりの値付けは、勘と過去の記憶に頼るしかない状態になります。この「決算からの逆算」しかできない状態は、価格交渉の場で影響してきます。
2026年3月に中小企業庁が実施した「価格交渉促進月間フォローアップ調査」の調査結果によると、コスト上昇分のうち価格に反映できた割合は54.2%でした。コスト要素別に見てみると、原材料費が55.7%であるのに対し、労務費は50.0%と約5ポイント低くなっています。さらに、取引階層が深くなるほど転嫁率は下がり、1次請けの55.2%に対して、4次請け以上では45.5%です。
材料の値上がりは仕入伝票に表れるため、根拠を示して価格交渉ができます。しかし、労務費──現場が使った時間──は自社の中で発生します。労務費が案件別の数字になっておらず、根拠を示すことができない場合、価格交渉のテーブルに載せることができません。交渉の場で「この案件は原価がこれくらいで、貴社の値段ではこれくらい赤字になる」と数字でいえる会社と、「厳しいので上げてほしい」としか言えない会社の差は、ここで開きます。案件別の原価は、社内の管理指標である前に、対外交渉の武器となります。
案件別原価が見えない原因は受託加工業の構造にある
なぜ「案件別の原価」だけが、これほどまでに見えないのか。これは担当者の怠慢ではなく、受託加工業の構造そのものが原因です(図1)。例えば、以下のような事例が挙げられます。
大企業向けの原価計算システムは、この突き合わせを前提に作られていますが、これは中小の受託加工の現場には重すぎ、かつ高すぎます。結果的に残る選択肢としてExcelでの管理が挙げられますが、ここに「本当の落とし穴」があります。
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