検索
ニュース

燃料電池触媒インクは「混合前」が重要、電気化学的利用性への影響を明らかに:研究開発の最前線

金沢大学は、固体高分子形燃料電池の触媒インクでは、イオンを伝導する高分子材料のアイオノマーを加える前の凝集状態が、その後の分散と触媒利用性に影響を与えることを明らかにした。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 金沢大学は2026年9月4日、固体高分子形燃料電池(PEFC)の触媒インクでは、イオンを伝導する高分子材料であるアイオノマーを加える前の白金担持カーボン(Pt/C)の凝集状態が、その後の分析挙動と白金触媒の電気化学的利用性に大きく影響することを明らかにしたと発表した。東京大学、堀場製作所との共同研究による成果だ。

Pt/C触媒の初期凝集状態をプレミキシングによって制御

 PEFCは、水素と酸素の電気化学反応によって発電する高効率なエネルギー変換デバイスで、自動車や定置用電源などへの利用が進められている。PEFCの性能を左右する重要な構成要素の1つが触媒層だ。

 触媒層は一般に、白金ナノ粒子をカーボン担体上に担持(カーボン表面に白金ナノ粒子を微細に分散/固定)したPt/C触媒、プロトンを伝導するアイオノマー、溶媒などを混合した「触媒インク」を塗布/乾燥して作製される。そのため、触媒インク中でPt/C触媒がどのように分散し、どのような微細構造を形成するかは、白金触媒を有効に利用する上で重要だ。

 これまで触媒インクについては、溶媒組成、アイオノマー量、触媒濃度、分散方法、

分散時間などが与える影響について数多く研究されてきた。一方、アイオノマーを添加する前のPt/C触媒がどのような凝集状態にあるかという「初期状態」の影響が、その後の分散挙動や触媒性能に与える影響については十分に検討されていなかった。

 そこで今回の研究では、Pt/C触媒の初期凝集状態をプレミキシングによって制御し、その違いがその後の触媒インク形成過程および白金(Pt)の電気化学的利用性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

燃料電池触媒インクの混合分散プロセスを自律的に最適化するシステム開発に貢献

 同研究グループは、Pt/C 触媒の初期凝集状態の違いを調べるため、水中でのプレミキ

シング条件を変え、「プレミキシングなし」「短時間プレミキシング」「長時間プレミ

キシング」の3条件を設定。その後、アイオノマーとエタノールを加えて触媒インクを調製し、さらに混合時間を変化させながら、粒子径分布(PSD)、レオロジー特性、SEM-EDX分析、サイクリックボルタンメトリーによる電気化学的表面積(ECSA)を評価した。

 レオロジー特性とは、液体やインクが「どのくらい流れやすいか」「どの程度構造を保とうとするか」を示す性質だ。SEM-EDX分析とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で試料表面の微細構造を観察し、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって、どの元素がどの程度存在するかを調べる分析手法を指す。

 プレミキシングを行わないPt/C触媒では、初期状態に大きな凝集体が存在し、その後の混合時間を長くすることで徐々に小さく均一な凝集状態へ変化した。それに伴ってECSAも増加し、Pt の電気化学的利用性の向上が確認された。

 これに対して、短時間のプレミキシングでは、アイオノマー添加前の段階でPt/C触媒を小さく比較的均一な凝集状態にすることができ、その後の分散が進みやすくなった。この条件では、混合時間1時間において本研究で最も高いECSA(64.42m2 gPt-1)が得られた。

プレミキシングによるPt/C初期凝集状態の制御と、その後の触媒インク形成およびPtの電気化学的利用性への影響(模式図)
プレミキシングによるPt/C初期凝集状態の制御と、その後の触媒インク形成およびPtの電気化学的利用性への影響(模式図) 出所:金沢大学

 一方、長時間プレミキシングすると、粒子径分布が再び広がる「再凝集」が生じた。この状態から触媒インクを作製すると、3時間の混合後も比較的大きな凝集構造が残存した。粒子径分布、レオロジー特性、SEM-EDX分析、電気化学測定の結果を総合すると、こうした崩れにくい凝集構造によってPt/C触媒表面へのアクセスが制限され、結果としてPtの電気化学的利用性が低下したと考えられる。

プレミキシング条件と主混合時間によるPtの電気化学的表面積(ECSA)の変化
プレミキシング条件と主混合時間によるPtの電気化学的表面積(ECSA)の変化 出所:金沢大学

 これらの結果から、Pt/C触媒の初期凝集状態は、その後の触媒インクの分散過程とPt利用性を決める重要な因子で、適切なプレミキシングによって制御できることが明らかになった。

 同研究で得られた知見は、金沢大学、東京大学、堀場製作所が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業として共同開発を進める、燃料電池触媒インクの混合分散プロセスを自動/自律的に最適化するシステム「混合分散 ROPES(Robotic Objective Process Exploration System)」の開発にもつながる成果だ。

 今後は、このような混合/分散メカニズムに関する知見と、粒子径分布やレオロジー特性などの計測データを組み合わせることで、混合分散ROPESにおける探索条件や評価指標の高度化につなげる。

 さらに、混合/分散条件を自動/自律的に探索する技術の確立を通じて、燃料電池触媒層の生産技術開発の効率化と高度化を目指す。

⇒その他の「研究開発の最前線」の記事はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る