1000回の充放電後も容量95.6%を維持する電解液添加剤を開発:研究開発の最前線
北陸先端科学技術大学院大学は、リチウムイオン二次電池で使われるグラファイト負極を保護し、耐久性を向上させる電解液添加剤「FPTI」を開発した。負極表面に安定した保護膜を形成することで、電池内部で起こる不要な副反応を抑制する。
北陸先端科学技術大学院大学は2026年9月7日、リチウムイオン二次電池で使われるグラファイト負極を保護し、耐久性を向上させる電解液添加剤「FPTI(pentafluorophenyl thiophene imine)」を開発したと発表した。負極表面に安定した保護膜を形成することで、電池内部で起こる不要な副反応を抑制する。
リチウムイオン電池は、負極材料として主にグラファイトが使われている。グラファイトは充放電を安定して行える優れた材料だが、電池を使用開始する際に、負極表面で電解液の一部が分解して、「固体電解面(SEI)」と呼ばれる薄い膜が形成される。この膜は、負極を電解液から負極を守りながら、リチウムイオンを通す保護膜としての役割を果たす。
一方、この保護膜が不安定で、充放電のたびに壊れたり作り直されたりすると、その過程でリチウムや電解液が消費され、電池の内部抵抗が増加して容量低下につながる。そのため、グラファイト表面に薄く安定した保護膜を形成し、それを長期間維持することが、負極の耐久性を高める上で重要だ。
リチウムイオン電池の性能を改善するためにさまざまな電解液添加剤が研究されてきた。特に正極を安定化させる添加剤については多くの研究が進められている一方、グラファイト負極を安定化させる添加剤は相対的に限られている。
これは、炭素材料自体の耐久性が一般的に低く、グラファイト負極を安定化するための効果的な添加剤の設計戦略が十分に確立されていないことが原因と考えられている。
そこで今回の研究グループは、負極表面で電解液よりも先に反応し、安定した保護膜を形成できる分子の開発に取り組んだ。
同研究では、リチウムイオン電池に広く使用されるグラファイト負極の表面に安定した保護膜を形成する新しい電解液添加剤として、フッ素を高密度に含むイミン化合物のFPTIを設計した。FPTIは、3-チオフェンカルボアルデヒドとペンタフルオロフェニルアミンとの反応により、94%の収率で合成した。
同化合物は、フッ素を多く含むペンタフルオロフェニル基と、硫黄を含むチオフェン構造を備えている。この解決策として同研究グループは、特徴的な分子構造によって、FPTIがグラファイト負極の表面で通常の電解液成分よりも先に反応し、負極を保護する安定した膜を形成することを狙った。
このFPTIを電解液に添加し、グラファイトを負極、金属リチウムを対極とした試験用のCR2025型コインセル(グラファイト/リチウムハーフセル)でその効果を調べた。計算化学で解析したところ、FPTIは一般的な電解液成分やバインダーより低いLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位を有し、グラファイト負極上で通常の電解液成分おりも先に還元されやすいことが判明した。このため、充電時にFPTIが先に反応することで、グラファイト負極の表面にSEIと呼ばれる保護膜を形成し、電解液の不要な分解を抑制できた。
実際にFPTIを添加したセルでは、添加していないセルに比べて、負極表面のSEI抵抗や、負極と電解液の間でリチウムイオンが移動する際の抵抗がいずれも低下した。FPTIを4mg/mL添加した場合は、SEI抵抗が7.6Ωから2.2Ωへ、電荷移動抵抗が41.8Ωから19.8Ωへ低下した。
リチウムイオンの移動しやすさを示す拡散係数は、非添加系の3.45±4.71×10-14cm2s-1-に対し、2mg/mL添加系では2.92±3.96×10-13cm2s-1、4mg/mL添加系では3.58±3.74×10-13cm2s-1へと向上し、FPTIの添加でリチウムイオンが移動しやすくなることが確認できた。
長時間の充放電試験では、最初の3サイクルを0.1C、その後0.5Cで評価した。その結果、約200サイクル時の最大容量を基準とした1000サイクル時点の容量維持率は、FPTIを添加しないセルでは62.7%だったのに対し、2mg/mL添加系で89.4%、4mg/mL添加系で95.6%に達した。FPTIの添加により、繰り返し充放電した場合のグラファイト負極の容量低下を抑制できることが示された。
また、実際のリチウムイオン電池に近い構成として、NMC811正極とグラファイト負極を組み合わせたフルセルも評価した。4mg/mLのFPTIでグラファイト負極表面にSEIを形成後、FPTIを含まない電解液を用いてフルセルを構成したところ、約233Wh kg−1のエネルギー密度が得られた。
開発した技術は、既存の電解液へ少量のFPTIを添加するだけで、負極の耐久性を向上できる。既存の電池製造設備や工程を大幅に変更することなく、導入できる可能性がある。今後は実用電池に近い条件での検証、実証を進めることで、リチウムイオン電池の長寿命化への応用が期待される。
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