「材料が原因」は本当か?――家電筐体の落下破損を読み解く:CAEで逆引きするトラブル診断の思考法(5)(2/3 ページ)
連載「CAEで逆引きするトラブル診断の思考法」では、身近な製品トラブルを起点に、「なぜ壊れたのか」を逆算して読み解くCAEの思考プロセスを解説する。第5回では、モデルチェンジ後に家電筐体の落下破損が増えたケースを想定し、材料だけでなく形状変更に目を向けながら、衝撃解析による原因究明の考え方を取り上げる。
衝撃は「エネルギー」で考える
衝撃を考えるときのもう1つの物差しが、エネルギーだ。高さhから落ちた製品は、床に着く瞬間、質量と高さに応じた運動エネルギーを持っている。衝突すると、このエネルギーは筐体や内部部品の変形、破壊、振動、反発などへと分配される。筐体がしなやかに変形してエネルギーを吸収できれば、局所的な応力/ひずみのピークを抑えられる場合がある。逆に、変形を許しにくい剛な構造は、短い時間/狭い場所でエネルギーを受け止めることになり、局所の応力が跳ね上がることがある(図2)。
ここで、樹脂特有の事情が重なる。樹脂の機械的性質は変形の速さ、つまりひずみ速度に依存する。多くの樹脂では、ひずみ速度が高くなると降伏応力が上昇する一方、破断ひずみが低下する傾向があり、静的な負荷に比べて脆性的な破壊を示すことがある。ゆっくり押せば粘って耐える筐体が、衝撃では粘る「時間」を十分に与えられず、脆性的に割れることもある。静的な試験やカタログ物性だけを見ていると、こうした挙動は見えてこない。
「形が変わると、壊れ方が変わる」
では、材料が同じなのにモデルチェンジ後に割れが増えるのはなぜか。答えの多くは、形状変更が衝撃時の「荷重の通り道」を変えてしまうことにある。
モデルチェンジでは、軽量化や部品統合のために肉厚が見直され、剛性を稼ぐためにリブが追加され、ネジボスの位置が変わる。静解析で確認すれば、たわみも応力も問題ない。むしろ剛性は上がっていることも多い。
だが衝撃の世界では、話が逆転することもある。リブは静的な剛性を高める補強材だが、その付け根や終端部(リブが途切れる位置)、ボスの根元などは応力集中部になり得る。衝撃時には、こうした箇所がき裂の起点となるケースも見られる。
肉厚を薄くした部位では、吸収できるエネルギーが減る場合も考えられる。さらに、形状が変われば金型内の樹脂の流れも変わり、強度低下の要因となるウェルドライン(樹脂の合流線)の位置が、よりによって応力集中部へ移動していることもある(図3)。
つまり、「材料は同じ、静的強度も同等、それでも落下では壊れる」は、力学的に十分あり得るのだ。連載第1回で「形状の不連続には応力集中が潜む」と述べたが、衝撃はその弱点を、静荷重よりもはるかに容赦なく突いてくる。
CAEで何を見るか
落下衝撃解析では、床に衝突する瞬間からの応力とひずみの時間変化を追い掛ける。着目するのは、最大応力の値だけではない。最大主ひずみがどこで、どの時刻に、どの落下姿勢で生じるかにも目を向ける。延性的な樹脂では、材料や破壊形態に応じて、ひずみを指標に破壊を評価することがある。ひずみ速度依存性を組み込んだ材料モデルを使えば、「静的には持つが衝撃では割れる」といった挙動をより適切に捉えられる(図4)。
実務でのポイントは、新旧形状の比較解析だ。同じ材料モデル/同じ落下条件で新旧の筐体を解析し、ひずみの分布と大きさを比べる。形状変更の影響だけを切り分けて比較できるのは、CAEの強みである。
試作品の落下試験では「割れた/割れない」という実際の結果を確認できる。一方、解析は「どこに、いつ、どの程度のひずみが生じたか」を時刻歴として返してくれる。
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