「材料が原因」は本当か?――家電筐体の落下破損を読み解く:CAEで逆引きするトラブル診断の思考法(5)(1/3 ページ)
連載「CAEで逆引きするトラブル診断の思考法」では、身近な製品トラブルを起点に、「なぜ壊れたのか」を逆算して読み解くCAEの思考プロセスを解説する。第5回では、モデルチェンジ後に家電筐体の落下破損が増えたケースを想定し、材料だけでなく形状変更に目を向けながら、衝撃解析による原因究明の考え方を取り上げる。
前回は、自転車フレームの破断を取り上げた。転倒という目に見える一撃の裏で、通常走行の繰り返し荷重が疲労き裂を静かに育てていた――時間をかけて進む破壊の話だった。
今回は一転して、破壊が一瞬で決まる世界を扱う。家電製品の筐体が、落下の衝撃で割れるトラブルだ。
そして今回も、疑われやすい「犯人」がいる。それが材料だ。モデルチェンジ後に破損の報告が増えると、「コストダウンで材料を変えたのが原因だ」と真っ先にやり玉に挙がりやすい。だが、その見立ては本当に正しいのか――。衝撃解析と静解析の使い分けを軸に、材料のせいにされがちなトラブルを読み解いていく。
本連載について:
本連載は、NITE(製品評価技術基盤機構)や経済産業省、国民生活センターなどが公表する事故/リコール情報を題材に、CAE(Computer Aided Engineering)の考え方と活用法を解説するものです。特定の製品や企業、業界を批判する意図はなく、本文中のCAE解析に関する記述や解析結果のイメージは、一般的な製品構造を想定した筆者の考察であり、実際の事故製品やリコール対象製品を解析した結果ではありません。
【事例紹介】「落とした」「ぶつけた」で壊れる家電たち
多くの家電製品では、筐体に樹脂が用いられている。軽く、成形の自由度が高く、絶縁性にも優れる。筐体材料として使いやすい一方で、「破損」という事故モードとは切っても切れない関係にある。
NITEの製品安全業務報告会の資料によれば、2008年度〜2009年10月19日に受け付けた事故情報のうち、プラスチックの破損が関係する(疑いのあるもの、可能性のあるものを含む)事故事例は153件あり、製品分野別では家庭用電気製品が83件と過半を占め、最多だったという。
家電では、外部からの衝撃による破損も身近な問題だ。国民生活センターには、2017年4月〜2022年6月の間にテレビ画面の破損や故障などに関する相談が823件寄せられ、そのうち551件が画面などの「破損」に関するものだった。相談事例には、物が当たったり、テレビが倒れたりしたことで画面を破損したケースもある。日常の一瞬の出来事が、高額な修理費用や買い替えにつながっている。
さらに注目したいのは、落下の影響が「外側の割れ」だけでは済まないことだ。NITEは2021年6月、携帯用扇風機について注意喚起を行っている。2019〜2020年度の2年間の事故発生件数は37件で、取り扱い上の注意として「落とすなど強い衝撃を与えない」ことも呼び掛けられた。落下などの強い衝撃で内蔵バッテリーが損傷すると、内部ショートから発煙/発火に至る恐れがあるためだ。
筐体のき裂は目に見えるが、内部部品へのダメージは見えない。落下という荷重は、思われている以上に製品全体へ深く効く。
そして設計の現場には、こうした事故統計には表れない「あるある」が存在する。モデルチェンジの後、市場からの破損報告が目に見えて増える、というものだ。ここからが今回の本題である。
現場の勘:「コストダウンで材料を変えたからだ」
モデルチェンジ後に筐体の割れが増えたとき、設計/品質の現場でまず疑われるのは材料である。「コストダウンで安いグレードに変えたはずだ」「再生材の配合率を上げたのではないか」――。
この直感には、材料力学的な裏付けがある。樹脂の耐衝撃性はグレードによって大きく変わるからだ。同じ「ABS」や「PC」という名前でも、耐衝撃グレードと汎用(はんよう)グレードではシャルピー衝撃値が大きく異なる場合がある。コスト圧力の中で材料が見直されるのも事実である。「材料を疑え」は、樹脂製品の経験を積んだエンジニアほど早く到達する仮説といえる。
ところが、である。材料の出荷証明を確認し、物性値を測り直しても異常がない。材料は変わっていないのに、壊れる。実は、モデルチェンジで変わっていたのは材料ではなく「形」だった――。そのようなケースも十分に考えられるのだ。
CAEアプローチ:一瞬の衝撃を、どう解析するか
落下は「静的な強度」の世界ではない
まず押さえたいのは、落下衝撃が静解析の物差しだけでは十分に測れない現象だということだ。机の上の家電が床に落ちるとき、衝突後の応力はミリ秒オーダーの短時間で大きく変化する。荷重は一定値ではなく、時間とともに鋭く立ち上がって消える「パルス」であり、部材の中を応力が波として伝わっていく(図1)。
連載第1回では、動荷重係数を使って「衝撃は静荷重の何倍」と概算する考え方を紹介した。この手計算は初期の当たりを付けるには今も有効だ。しかし、筐体のどこに、どの向きで、どれだけのひずみが生じるかは、落下姿勢や衝突面の状態で大きく変わる。角から落ちるか、面で落ちるかで、同じ製品でも壊れ方はまるで違う。
ここから先は、時間の次元を含んだ動解析(衝撃解析)の出番である。動解析の解き方には陰解法と陽解法があるが、落下や衝突のように短時間に大きな変形や複雑な接触が生じる現象では、陽解法がよく用いられる。
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