PFOS/PFOAの発がん性の評価:PFASリスクの基礎知識(6)(2/2 ページ)
PFASの基礎知識やリスクなどを紹介する本連載。第6回はワクチン抗体価とともに注目されている発がん性について説明する。
リスクのものさし
がんリスクは上記のような生涯の発がん確率として表現することが多いが、より分かりやすいリスクの提示方法として、リスクのものさし(リスク比較のための標準的なリスク比較セット)がある。このリスクのものさしでは、がん、自殺、交通事故、火事、落雷の5つの要因をセットとし、リスクは人口10万人当たりの年間死者数で表現する。この特徴として、
- リスク比較の対象を恣意的に選択できないように比較対象を一定にさせる
- 大きなリスクから小さなリスクまでをカバーできる複数の基準をセットにする
- なじみがあって統計的に安定している
- リスク認知(心の中で考える主観的なリスクの大きさ)の偏りがかかりにくい
などの点がある。
これらの死因別のリスクについては2020年の人口動態調査による値を用いた(落雷は単年度の死者数が少ないため2010〜2019年の平均値)。また、PFOS/PFOAの生涯発がんリスクを年間死亡リスクに換算するために70で除した。ここから発がん=死と見なして10万人当たりの年間死者数を計算すると、PFOS:0.056人、PFOA:0.0001人となる。この結果をリスクのものさしとともに示すと表1のようになる。PFOSのリスクは火事と落雷の間であり、PFOAのリスクは落雷以下であることが分かる。また、PFOSの発がんリスクはがん全体のリスクの5400分の1程度となっている。最初に紹介したIARCの分類(PFOAがグループ1、PFOSがグループ2B)と発がんリスク(PFOS>PFOA)が一致していないことも分かるだろう。
これは発がん=死亡とみなした場合の数字であるが、実際には発がん確率よりも死亡リスクは低くなる。また、PFOS/PFOAは使用を中止した後は曝露濃度が減少傾向にあるため、生涯に同程度の曝露を受けるとの仮定はリスクを過大に評価する。
さらに、発がん確率が曝露量に比例するという線形閾値なしモデルを用いた計算であるため、かなり過大な見積もりとなっている。このように、最大限に大きめにリスクを見積もってもこのくらいという解釈であるため、実際のリスクはさらに低くなるであろう。
PFOS/PFOAの発がん性の評価とリスクの大きさについて解説したが、次回は発がん性とともに報道などで注目されている血液中濃度の基準値とその根拠について解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
PFASとは何か? 何が問題なのか?
PFASの基礎知識やリスクなどを紹介する本連載。第1回はPFASの概要やPFOSやPFOAの問題とPFAS問題の違いなどについて説明する。
欧州のPFAS一括規制の動向と問題点
PFASの基礎知識やリスクなどを紹介する本連載。第2回は欧州におけるPFAS一括規制の内容とその問題点ついて解説する。
PFASがなくなったら私たちの生活はどうなるか?
前回は、欧州におけるPFAS一括規制の内容とその問題点ついて解説した。今回の連載第3回では、PFASはどのような製品に使われているのか、そしてPFASがなくなったら私たちの生活にどのような影響が出るのかについて解説する。
日本におけるPFOS/PFOAの評価と管理
第2回と第3回の記事では欧州におけるPFAS一括規制の動向やその影響について解説した。一括規制によって私たちの生活からPFASがなくなると大きな影響が出る可能性を指摘した。ここまでで「PFAS問題」の解説はいったん終了し、今回以降は「PFOS/PFOA問題」を取り上げていく。今回の第4回では日本におけるPFOS/PFOAの健康影響評価と水中の基準値について解説する。
欧米や国際機関におけるPFOS/PFOAの評価と管理
第4回では日本におけるPFOS/PFOAの健康影響評価と水中の基準値(合計で50ng/L)、基準値を超過した場合のリスクの判断方法について解説した。今回の第5回では、欧米や国際機関におけるPFOS/PFOAの評価と管理について説明する。

