約10年ぶりに改定される「ISO 9001」で何が変わるのか JQAが語る規格改定の要点:製造マネジメント インタビュー(3/3 ページ)
業界/業種を問わず世界中の企業や組織で利用されている、品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO 9001」が、2026年9月に約10年ぶりの規格改定を予定している。これに伴い改定の要点やどのような変化が発生するのかについて、ISO 9001のFDIS情報を基に一般財団法人日本品質保証機構(JQA)の審査員に話を聞いた。
ISO 9001:2026の改定ポイント
今回の改定のポイントとして、JQAは大きく分けて6つの要素があると捉えている。
1つ目は「組織の状況」だ。企業は利害関係者がどのような期待やニーズを自社に求めているのかを整理して、品質マネジメントシステム(QMS)の適用範囲を決める必要がある。その後、マネジメントシステムを動かすための各プロセスを作り上げるが、この部分について見直して欲しいとJQAは訴えている。「適用範囲が適切でないと、その後の運営にあたって顧客満足につながらないため、今回の改定を機に見直して欲しい」(大久保氏)。この部分に関連する主な要求事項の例は「4.1 内部・外部の課題」「4.2 利害関係者のニーズ・期待」「4.3 QMSの適用範囲」「4.4 品質マネジメントシステム」である。
2つ目は「品質における新たなトレンド」だ。昨今ではさまざまな品質問題が発生しており、適切なリーダーシップやリーダーからの指示などが重要視されている。しかし、組織のリーダーやトップから指示を受けたとしても、その意向に合わせて組織運営ができる作業環境が整っていないことには達成できないという課題が存在している。
そのため、今回の改定ではリーダーシップ及びコミュニケーションに関する要求事項で、品質文化や倫理的行動に関する記載が新たに追加されている。大久保氏は「最近の作業環境を見てみると、品質よりも納期を重視して、これに追われてしまっている組織は決して品質文化が保たれているといえない。この点を考慮して、トップマネジメントの部分で品質文化を維持しなさいという要求が入っている」と強調する。
3つ目は「品質保証・品質管理の強化」だ。従来では文書を作ることが目的になっていた状態から、作成した文書を現場でも活用できるようにするために、「利用可能でなければならない」という文言が各条項に追加されている。
4つ目は「リスク及び機会/変更の管理」だ。従来は同じ条項でまとめられていたリスク及び機会への取り組みについては、それぞれでアプローチ手法が異なることが多いため、「6.1.2 リスクへの取組み」「6.1.3 機会への取組み」という形で分けられることとなった。変更管理については「6.3 変更の計画策定」において、「変更のコミュニケーション」「変更の有効性の監視、評価方法」「変更結果のレビュー方法」が新たに要求事項として追加され、2015年版と比べてより強化されている。
5つ目は「サプライチェーン」だ。アナログな情報のやりとりからデジタル上でのデータのやりとりが主流となった現代に合わせて、要求事項が整理/強化されている。例えば、条項「8.2.1 顧客とのコミュニケーション」では要求内容に変更はないが、顧客とのコミュニケーション方法にデジタルコンテンツに関する注記が追加されている。
6つ目は「附属書SL/調和構造(Harmonized Structure、HS)」だ。昨今ではISO 9001だけではなく、他のISO規格と同時に運用する企業が増えたことから、共通の骨組みを定めたルールブックである附属書SLの内容が各条項に反映され、文言が整備されている。
移行審査のスケジュールとピーク時期について
ISO 9001:2026は2026年9月に正式に発行される予定である。規格発行後は、発行された月から3年間のうちに移行審査を実施しなければならない。大久保氏は「今回の改定では審査機関の認定手続きが通常から2〜3カ月ずれ込む可能性が高く、実際に移行審査ができるようになるのが2027年の半ば頃であると見込んでいる」と語る。
今回の改定は大幅な変更がなかったため、企業の各現場で必要となる対応はそこまで多くならないと予測されているが、新しく強調された箇所や、文言が追加された箇所に関して、従来通りの運用で問題ないのかを確認することは必要となる。予定通りに規格が正式に発行された場合は2027年末〜2028年内が移行審査のピークになる。
大久保氏は「ISO 14001の最新規格である『ISO 14001:2026』の移行審査期限が2029年春頃と見込まれているので、これに合わせてISO 9001の移行審査も一緒に済ませてしまいたいという企業が多くなると予測される」と述べた。
多くの企業が認証取得しているISO 9001とISO 14001の規格改定が2026年度に行われることで、各企業は移行審査の対応に追われることになる。移行審査をスムーズに完了させるためにも、マネジメントシステム規格の適用範囲を見直して、審査予定日から逆算して内部監査対応やMR(マネジメントレビュー)を完了させることが大切だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
自動運転レベル2車両による幹線輸送サービスなどを評価 T2がISO 9001を認証取得
T2は品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO 9001:2015」の認証を取得したと発表した。自動運転分野の企業が同規格の認証を取得したのは国内初(同社調べ)の事例である。
設計プロセスで完璧に製品の品質を確認できない理由
設計品質と量産品質の構造を整理し、品質不良が生まれるメカニズムを体系的に考察する連載「製品リコールを生む品質不良の原因と対策」。第5回では、設計プロセスにおける審査や試験/測定の役割を整理した上で、それでも製品品質を完璧には確認できない理由を、品質基準書と品質システムの観点から解説する。
管理職の約76%が「品質改善課題」を認識 経営層と現場の間にあるギャップとは
日本能率協会総合研究所(JMAR)は、製造業上場企業の生産/製造/開発/営業現場で働く従業員1200人を対象に実施した「第4回 従業員の品質意識」アンケート調査の結果を公表した。管理職の76%が「職場の品質改善課題」を認識しており、改善が進まない背景には「経営層の姿勢」が影響していることがアンケート調査で判明した。
紙からデジタルへ Tebikiが変える製造現場の働き方
Tebikiは、現場帳票の管理ツール「tebiki現場分析」のユーザー向けイベントを開催し、DXによる現場改善の価値を訴えた。
ニデックは会計に加え品質でも不正、家電用モーター中心に1000件超の疑い
ニデックが家電用モーターを中心とする一部製品で判明した品質に関する不適切行為について説明。一連の不適切会計問題に対応するために設置した「ニデック再生委員会」が実施した品質総点検に対して、既に1000件以上の品質不適切行為の疑いが確認されているという。
三菱電機とソニーの事例に学ぶ 品質不正防止につながる組織風土改革
繰り返される製造業の品質不正問題。解決の鍵は個人ではなく、「組織風土」の見直しにあります。本連載では品質不正を防ぐために、組織風土を変革することの重要性と具体的な施策をお伝えしていきます。

