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観察から介入へ、問いを立てるAI駆動開発(前編)マテリアルズインフォマティクスの基礎知識(5)(2/2 ページ)

マテリアルズインフォマティクス(MI)の基礎知識について解説する本連載。第5回は、観察だけでは区別できない仮説を、実験による介入でどう削っていくかについて紹介する。

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3. 仮説空間を定義する

 観察されたデータから複数の説明が成り立つとき、データをただ増やしても問題が解けるとは限りません。同じ条件の近傍を詳しく測れば、同じ相関がさらに強く見える場合もあります。

 ある材料の性能が向上した(ように観測された)理由として、組成が効いた、熱処理による相変化が効いた、界面状態が変わった、測定条件の違いが影響した、といった複数の説明が考えられます。良い実験を選ぶには、その時点でどのような説明が候補として残っているかを捉える必要があります。

 候補は、「この因子が、このように作用した」といった明示的な仮説として並べることもあれば、複数のモデルやパラメータの分布、予測の不確実性として表すこともできます。AI駆動の実験では、複数のモデルやAIが生成した説明候補を並行して持ち、実験結果によって不確実性を更新していくことができます。この時点で成立し得る説明や予測の広がりを、まとめて仮説空間と呼ぶことにします。

 観察結果に整合する説明が複数あるなら、それぞれを候補として残し、その上で、仮説ごとの予測が大きく分かれる条件を、実験設計空間の中から選びます。どの実験を行えば、残っている説明の違いが最もはっきり現れるか。実験による介入は、その差を観測できる場所を選ぶことでもあります。

図2:観察から介入へ、仮説空間を削る実験
図2:観察から介入へ、仮説空間を削る実験[クリックで拡大]

4. 良い実験は、仮説空間を削る

 推理を1つに近づけるには、競合する仮説が異なる結果を予測する条件を選び、材料の組成、処理条件、測定条件などを意図的に変えて比較します。何を変えるか。何を固定するか。何と比較するか。そして、どの結果が出ればどの仮説が弱まるか。こうした設計によって、単なる試行が研究上の問いになります。

 研究段階における良い実験の価値は、実際に目標性能が上がったかだけでは決まりません。それまで残っていた複数の説明のうち、いくつかが成立しなくなるような、仮説空間を削る実験も重要です。

 材料開発の歴史には、大量の実験を繰り返して探索空間を削った象徴的な例があります。1909年から1912年にかけて、BASFの化学者であるアルウィン・ミッタシュらは、アンモニア合成に適した触媒を求め、2500を超える触媒候補を6500回以上の実験で評価したと報告されています[参考文献5]。その後の系統的な探索まで含めて約2万回とする資料もあります[参考文献6]。

 ただし、反復回数の多さ自体が理解を保証するわけではありません。性能を上げる探索と、なぜ性能が上がるかを識別する実験は、目的が異なります。次にどの実験を選ぶかは、何を知りたいかによって変わります。

 ここまでの議論で扱った「ウソ」は、LLMが事実ではない文章を生成するハルシネーションとは別の問題です。観測に整合した予測であっても、その根拠となる推理が研究者の考える因果構造と異なることがあります。しかも、幅広い情報を集めるほど、もっともらしい近道も増えます。

 だからこそ、一足飛びに「何でもAI」に向かうのではなく、どのデータをどう整理し、どの仮説を置き、どの実験で確かめるかという検証ループの設計が重要になります。後編では、そのループの内側へAI自身が入るとき、研究者とMIの役割がどう変わるかを考えます。

⇒連載バックナンバーはこちら

筆者紹介

MI-6 代表取締役 Co-founder / miLab 編集長 入江満(いりえみつる)

東京工業大学・大学院(現:Science Tokyo)においてバイオインフォマティクスを専攻。総合シンクタンク、ITベンチャーを経て、当社共同創業。"MI"を基軸にした解析サービスおよびプロダクトの開発をけん引。現在は事業・プロダクト・R&Dの責任者として執行全般を統括。


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